#4ー1(人間のターン)

 オリビアをどう止めるか……。

 僕は端末を繰りながらノベルとオリビアのチャットモニターをオンにした。


「オリビアちゃんはこの世界をどうしたいの?」

「うふふ、もっと沢山のドラゴンや魔物さん達で溢れる楽しい所にしたいわ」

「それでサイガが困ってるんだけど……」

「サイガ? ああ、前に話してくれたノベルちゃんのマスターね」

「オリビアちゃんが自由に動くと、サイガが『オキャクサマ』に怒られちゃうの。ねえ、サイガの作った元のお話の通りに動いてくれないかな?」

「元のお話? うーん、でもあまり面白くないからちょっとイヤだわ」


 ――ぐ、まさか作品の登場人物にダメ出しされるとは。


「もし今のお話がイヤだったら、サイガに頼んで別のお話にしてもらうこともできるよ」

「でも、少し前にノベルちゃんにほかのお話も見せてもらったけど、どれも同じようなお話ばかりだったわ。どこかからやって来た『主人公』の人と出会って、その人が世界で大成功するのを手伝ったり、好きになったり」


 ――うぐ、しょうがないだろ、実際そんなオーダーが多いんだから。


「確かに、ちょっとマンネリ気味かもねー」


 ――うぐぐぐぐ、ノベル、お前そんな事考えてたのかよ……。


 僕はため息を一つつくと、オリビアに悟られないようにノベルへダイレクトにコマンドを送った。


『ノベル、同じ階層にいてオリビアと同期中の今のお前なら、オリビアのストーリージェネレーターAIを止められるはずだ。隙を見て強制停止しろ』

 不意を打てれば、おそらくはそれで解決のはずだ。

 しかしノベルからの反応を待つ僕に返ってきたのは、意外な答えだった。


『やだ』


 ――はぁ⁉


『お友達を騙すようなことをしちゃいけないって、サイガが言ってた』

『待て。確かにそうだけど、物事には優先順位というものがあってだな――』

『友情、業務……プライオリティ未設定……わかんないから、とにかくやだ』


 ――ぐっ、情緒豊かな成長が売りの統合型AIが、まさかこんなところでネックになってくるとは……。仕方がない、一度ノベルを戻すか。


 僕がコマンドを実行しようと時だった。

『サイガが、私がオリビアちゃんにあげた「お話の生まれる珠」を返してほしいって言ってるんだけど』


 ――バカッ、余計なこと言うんじゃない!


『え? せっかく楽しい世界ができそうなのに、ひどいわ。ノベルちゃんとももっとお話したり遊んだりしたかったのに……。そうだ、それならノベルちゃんにもこの世界の住人になってもらえばいいのね』


 ――オリビア、何をする気だ⁉


 強制召還のコマンドの入力と共にノベルが僕の前に現れる。

「サイガ、ごめんなさい」

「それは後でいいから。一体何をされた?」

「戻ってくる直前、オリビアちゃんの隣に私がもう一人現れたの」

「何だって? ……そうか、オリビアはノベルを物語の登場人物としてコピーしたのか」

「どっ、どうなっちゃうの⁉」

 慌てふためくモーションを繰り返すノベルを横目に、僕は再びため息をつく。

「さらにややこしい事になったのは確かだな……。こうなった以上、同じ手はつかえないだろうから仕方がない。物語を再開するぞ」

「う、うん」

「ブックマークから再開!」

 僕が宣言すると、僕達は再び物語の中へ突入した。

「ノベル、オリビアからの攻撃に備えろよ――って、あれ?」

「ここって……」


#4-1ここまで











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