第4話 憑いて来る世話焼きばぁさん

 どのくらい歩いただろうか?

 村を出たのは初めてだが、隣町も中々落ち着く雰囲気が出ている。

 何か食べ物はないのかと、のそのそ住宅街を歩いていると、白く冷たい何かが鼻に触れ、オレは驚いて飛び跳ねてしまう。

「ほっほっほ、雪じゃな、ほれみろ雪じゃ」

 婆さんの言葉に空を見上げると、沢山の粉の様な物が降ってきていた。

「団子〜、早く暖かな場所を探さないと」

「うるさいな、分かってんだよ」

「わしが探してきてあげようか!」

「幽霊に何が出来るんだよ」

「分からんがこのままでは、団子が凍え死んでしまうよ。それに腹も減ったろ?」

「減ってない」

 そう言い返したが、タイミング悪く腹の虫が鳴き、婆さんは笑っていた。

 ……胸糞悪いぜ


 オレはすぐ近くの家の前へ行けば「にゃー」と声を掛けてみる。

 直ぐに人間は出て来てくれたが、泥だらけでやせ細ったオレを見ては「野良猫かい!!あっちおいき!」と、ドアを閉められてしまう。


「なんだい、ありゃ!団子が何したって言うんだい!!」

 人間の態度に怒り込み上げ、ドアに向かって大声を出す婆さん。

「人間なんてそんな物さ。婆さんが変わり者なだけだ」


 オレは仕方なく、近くのゴミ捨て場を漁る事にした。

 だが、此処でも婆さんはオレに声を掛けてくる。

「そんなのおよしっ、腹でも壊したらどうするんだい」

「でも、食わなきゃ死ぬんだ。オレは死ぬのはゴメンだぜ」

 ゴソゴソとゴミ袋を破り漁っていると、食べかけの食材が零れ落ちてきた。


 今日はついてるぜ、魚も肉も出てきた!


 オレが魚にがっついていると、ふと違和感に気づく。

 いつもなら、ガーガーと止めてくる婆さんの声が聞こえない……。


 まぁ。いっか飯が先だ



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 食事が終わり、寝床を探しに公園へと向かうと何やら人集りが出来ていた。

「あの人、1人で何を騒いでるのかしら」

「こんな寒い中、草むらに向かって騒ぐなんて。おかしいぜ」


 オレが人混みを抜けて様子を見ると、目の前には幽霊の婆さんに向かって、一人の人間が叫び声を上げていた。

「返せ!俺の飯だ!布団を返せ!!」

 婆さんの近くにはダンボールと1個のパンが置かれている。

「ヤダね!そもそも、なんでわしが見えてるんだい!コレはウチの団子にやるんだ!」

 野次馬達には幽霊の婆さんが見えて居ないらしい


 まったく……

 盗みはダメだと自分が言っていたくせに、幽霊ならいいのかよ。

 オレが婆さんに近寄ると、人間を無視し直ぐにパン1個を差し出してくれた。

「ほれ、団子〜コレなら腹を壊さんぞ」

「盗みはダメなんだろ?あの人間に返してやれよ」

「じゃが、それでは団子がっ」

「余計なお世話なんだよ、人に迷惑かける婆さんなんか見たくもねぇよ」

「……そうじゃな、わしが悪かったのだ」


 婆さんは素直にパンとダンボールを人間へと返した。

 すると、人間はそれらを抱えどこかへ走っていき、野次馬達もそれぞれの家へと帰っていった。

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毒吐き猫と世話焼きばぁさん もげりん @mogerin

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