第320話

「確かに事情が事情だっただけに親や部族の皆とは別れを惜しんだ。

 だが会いに行けないのはそれが理由ではない!」


「それじゃあどんな理由があるの?」


「……私の他にも14人が売られたのだ。

 その者達を差し置いて自分だけ故郷に顔を出すことはできない」


「それは…………その通りね……」


 他の売られた女性達の安否が不明な状況下で里帰りはできないか。

 ディアがそう考えるのもよくわかる。

 それに、部族内で手厚く保護されてるというディアの両親の立場もある。

 自分達の娘だけ帰って来たとなると、残りの身売りした娘のいる家族に恨まれたり、最悪村八分なんてこともあり得るか……


「しかし、ディアの購入価格から推測するに他のヘクツゥーム族の女性も相当高額で売買されたはずだ。

 そうひどい扱いは受けてないと思うが」


「そうだと良いのだが……」


 普通に考えれば奴隷の価値を下げないよう大事にするはず。

 だが世の中にはその普通をしない、できない人間が少なからずいる。


「ギルドで調査依頼を出しても結果が届くまでには相当な日数がかかるだろう。

 何せ帝国北部のどの街のギルド宛に依頼を出せばいいのか、それすらわかってないのだからな」


 手掛かりが少なすぎるのだ。

 ヘクツゥーム族と取引したという帝国貴族の名前すら秘匿されていてディア達は知らない。その貴族に気に入られた姉妹を除いて。

 村からの移動も街や村を避けて野営を繰り返したという徹底ぶりだし。


「場所が特定出来たらまずは手紙を出すのはどうだ?

 ご両親の様子も知れるし、部族の状況も知ることができる」


「手紙か……」


「外部と手紙のやり取りぐらいしてるだろ?」


「もちろんだ。私はそのような経験はないが」


 ディアがまさかの手紙未経験か。

 外部と隔絶された集団の中ではそれほど珍しいわけではないのだろう。

 となると……


「手紙を利用してるのはどのような人なんだ?」


「村にはヘクツゥーム族以外の者も少数だが住んでいる。他の部族から嫁入り婿入りしてきた者達だな。その者達が実家と連絡を取っている。

 逆に他の部族の村に住んでいるヘクツゥーム族もいるので家族とやり取りしている」


 単一部族だけの集落というイメージだったが、それほど閉鎖的でもないのか。

 いや、閉鎖的だからこそ意図的に外部の血を入れてるのかもしれない。

 近親婚のリスクを回避するために。


「村への手紙は行商人が持ってくるのだろう? 名前とか知らないか?」


 行商人の名前がわかれば大きな手掛かりとなるに違いない。


「私達の村には行商人は来ない。

 荷馬車で1日半で着く大きな集落で手紙やその他必要な品を手に入れることができる。

 その集落の住人が品物の売買から全てを仕切っているので、他の部族の者は行商人と直接取引することはできないのだ」


 集落が行商人を独占しているのか。

 荷馬車でさらに1日半という距離だと、行商人も採算が取れなくて少数部族の村には行けないのだろう。

 日本では遠隔地でも(追加料金はかかるが)荷物を届けてくれるが、馬車が運送の主体であるこの世界では無理か。


「その集落の名前もないのか?」


「ああ。住んでいる部族の名からカルネロ族の集落と呼んでいる」


「行商人と取引している部族の名前がわかったのは大収穫だ」


 こういう生活に不便な辺境では、飛行魔法と収納魔法が使える魔術士は重宝されるだろうなぁ。

 歳を取ったら僻地で飛行輸送でもしながら、のんびりとスローライフもいいかもしれない。

 今の暮らしも日本にいた時と比べれば十分スローライフではあるけど、街中で暮らしてるから田舎成分が圧倒的に足りないんだよなぁ。

 もっとも、『僻地に住むとして具体的にやりたいことはあるのか?』と聞かれると返答に困ってしまう。農業や畜産をやりたいわけではないし。でも鶏ぐらいなら飼ってもいいかもしれない。普段食べてる卵を産んでいるのが鶏ならだけど……

 あとはバーベキューとか? 田舎暮らしというよりレジャーだな。しかしバーベキューか……

 屋外で食べる機会は結構あるが、収納から調理済の食べ物を出して食べるだけだ。バーベキューはいいかもしれない。

 ちょっと準備に動いてみるか。場所は……ウチの庭だと狭いか。露天風呂を作った西の森の拠点でもいいが、どうせなら大自然を感じながらがいいだろう。


「ツトムさん、庭に何かあるのですか?」


 俺が庭のほうを見ていたのが気になったようだ。

 ここは秘密にしておきたいので話題を変える。


「いや……

 そう言えばルルカ、どうして明日の予定なんか聞いたんだ?」


 予定を聞かれるなんて珍しいことだ。今までまったくなかったわけではないが。


「最近またお忙しくされていますので、しばらくお休みになられては如何かと」


「ふむ……」


 言われるほどには忙しくしている自覚はないが、前回ある程度まとまって休めたのが南砦奪還前で今から1ヵ月以上前のことだ。

 王都にある魔術研究所への立ち入り許可が下りるのが20日後ぐらい。それまではのんびりしてもいいかもしれない。バーベキューの件もあるしな。


「明日の壁外ギルドでディアの調査を依頼をする件は変えられないが、その後はしばらく休みにするか」


 本来なら調査依頼は昨日手続きをするはずだったんだ。

 それを城内ギルド(=レドリッチ)が護衛依頼なんて横入りさせてくるから……


「それがよろしいかと思います。お休みになられる間は私共で精一杯お世話いたしますので」


 対面に座る2人に見えないようにルルカと手を繋ぐ。


「ツトム様! それでしたら以前の訓練の続きも……」


「却下だ」


「そんなぁ……」


 魔法の練習は休みでも続けるつもりだが、剣術の特訓なんて冗談じゃないっ!!









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今回の投稿は明日加筆修正します

午前中に行う予定です


※話数のところに加筆予定であることを表記するようにしました

 加筆完了後に表記は消します

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追記)加筆修正済

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