第319話
帰宅後、夕食の時間。
「冒険者ギルドからの依頼というのは終わられたのでしょうか?
場合によっては明日までかかると仰っていましたが」
「ああ、今日で終わりだ」
「ツトム様、どのような依頼だったのでしょう?」
3人にはギルド職員の護衛として南の森に行くと軽く伝えてあるだけだ。
黒オーガと戦ってきたと言ったら心配かけてしまうだろうか?
楽勝だったのだしそこまで気にする必要はないか。
どの道ロザリナは時々壁外ギルドで剣の指導をしているので、ミリスさん経由で情報を仕入れられるから今話したところで大差ない。
「今回の依頼は、ギルド本部が特殊個体討伐のために2等級パーティーを派遣してきて…………」
変に盛ったりせずに、なるべく簡潔に話していく。
「…………ケガしたチェイスのメンバーを回復させてバルーカに帰還した、というのが一連の流れだ」
「2等級パーティーに犠牲者が……」
「討ち取った特殊個体の死体を見てみるか?」
「い、いえ! 結構です!」
「モグモグ…………ツトムっ! 食事中に変なモノを見せようとするんじゃない!!」
せっかく討ち取った黒オーガが変なモノ扱いとは……
ディアは食べることに夢中に見えてもこちらの話はきちんと聞いてるみたいだな。
「ギルド本部はツトムさんに恥をかかされた形にならないかしら?」
「いや、本来は弱いパーティーを派遣してきた本部側に問題があることで……」
「ロザリナはどう思うの?」
俺の言うことはガン無視ですか、ルルカさん。
「一般的には普通の冒険者でも2つも等級が下のパーティーに助けられたら屈辱に感じます。
ましてや15歳のソロに、となると……」
「だからと言って見捨てるわけにもいかないだろ?」
「当然です。
そこでツトムさん、私との約束は覚えていますか?」
「も、もちろん覚えているぞ。
仮にギルド本部が何か言ってきたとしても、最大限自重する」
「ならいいのです」
実際王都のギルドに何言われたところで気にする必要なんてないと思うけどな。
余計なトラブルを起こすなってことをルルカは言いたいのだろうけど……
「ところでツトムさん、明日のご予定は?」
「明日は壁外ギルドでディアのことを依頼するつもりだ」
「私の依頼?!」
「ああ、ディアがいたヘクツゥーム族がどこに住んでいるのかの調査依頼だな。
そういや自分の住んでた村? の名前とか場所の名称は何かないのか?」
「ないな。強いて言うならヘクツゥーム族の村だが、略してヘク村と呼ぶ者もいた」
ヘク村ねぇ。略称とは言えこれでは名前から手掛かりを得るのは無理っぽいな。
いや、待てよ。
確か奴隷商で聞いた話では……
「ヘクツゥーム族は他の部族に住んでいた土地を奪われて新たな土地へと移ったと聞いたが?」
「その通りだ。私が生まれる前の出来事だが……」
そんな昔の話なのか。
「前に住んでいた村や土地にも名前はないのか?」
「ないぞ。
幾つも村を抱える大部族と違って、ヘクツゥーム族は1000人にも満たない少数部族なんだ。
一々村や土地に名前を付けて区別する必要がない」
三十路のディアがあれほど高額で売られるぐらいヘクツゥーム族には希少価値がある。
少数部族なのは当然だが、それにしても住んでいる土地にすら名称がないとは……
「土地を奪われたのにまだその部族が攻めてきてるの?」
「"奪われた"と言ってはいるが、正確には土地を差し出してその部族とは和平を結んだ形だ。
他の部族が仲介に入って土地の明け渡しと新たな地への移動は円満に行われた。
現在は部族が今の地に移り住んだことによる別の争いが起こっている」
ご近所トラブル……だとノンキ過ぎるし、ご近所戦争だと大げさになるな。極力犠牲者を出さないような戦いなのはディア本人が言ってたことだし……ご近所紛争って感じか。
「で、ツトムはどうして部族の場所が知りたいんだ?」
「ん? ディアを連れて行くために決まっているだろう」
「私を連れてってどうするつもりなんだ?」
「どうするも何もご両親に挨拶するだけなんだが……」
「両親に挨拶???」
俺は何かおかしいことを言ってるだろうか?
「ツトムさん、普通は奴隷の親に挨拶などはしないものですよ」
「そうなのか? 親御さんだってディアのことを心配してるだろう。どんな暮らしをしてるのか、とかさ」
ディアだって両親のことを心配してるはずだ。
俺としては後顧の憂いなくエロエロご奉仕をしてもらいたいだけなんだが……
「ディア、私もツトム様の尽力で妹と共に母と再会できてとても嬉しかったわ。
王都なんて馬車でも2日で行けたのに気付いたら10年以上も疎遠にしていたのよ」
ロザリナの場合は義父という微妙な家庭の事情があったからなぁ。
「でもロザリナとは違って私はまだ村を出て1年も経ってないから……」
「私も家族と会わせて頂いたわ。ツトムさんの依頼の都合で10日以上も実家で過ごせたのよ。
ディアだけご両親と会えないというのも心苦しいわ」
うん。うん。仲間外れは良くないぞ。
「し、しかし……」
両親に会うのに抵抗でもあるのだろうか?
「ひょっとしてディアが貴族に売られたことをご両親は知らないとか?」
「いや、そんなことはない。
貴族との取引は部族全体での決定なので隠しようがないし、身売りした者の家族は部族で手厚く保護されることになっている」
ヘクツゥーム族が新たに移った土地は豊かではなく生活は大変困窮した。そこへ帝国の貴族が支援と引き換えに希少価値のある部族の女性を欲する取引を持ち掛けて部族側もこれを了承、ディアを含む15人の女性が貴族に引き渡され部族には支援が行われた。
帝国貴族は若い姉妹を手元に置いて他を売却、最終的には帝都の奴隷商で売られていたディアを俺が買ったわけだが……
「わかったわっ!!」
ルルカがポンっと両手を合わせる。
「ご両親と今生の別れかのように大げさに別れたから再会し辛いのでしょう?」
「ゴホッ?!」
ディアがむせている。図星か?
そんなことで会いに行けないだなんて……
「私もね、買われたばかりの頃誰かさんに同じことをされたのよっ!」
「ぶっ?!」
俺も似たようなことしてたわ!!
「例の件ですね」
その『何度も聞かされて耳タコですから』みたいなロザリナの反応もどうなのよ。
「でもツトムさんはその後、何事もなかったかのようにのほほんとした感じで帰って来てすごく腹立たしかったわ!!
だからディアも気にせずにご両親と会えばいいのよ?」
どういう理屈で『だから』に繋がるのかルルカを問い詰めてやりたい!!
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