第318話

遅れてしまい申し訳ありませんでした。

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「いや、その試験については6等級に聞き取り済なんだ」


 昇格試験が終わってまだ4日なのに既に聞き取りを終えていることに驚くべきか……

 もう4日も経ったのだからこの人であれば当然のこと、と納得すればいいのか……


「君には武闘大会のことを聞きたくてね。

 冊子だけでは試合の詳細まではわからないから」


「いいですよ」


 と、返事をした時、


「自分も聞かせて欲しいっス!」

「私もいいですかぁ~?」

「俺も聞きたいです!!」


 突然周りの席にいた冒険者達が群がって来た。

 ある意味ラック氏は有名人なので注目されていたようだ。


「彼らも一緒にいいかい?」


「別に構いませんが……」


 先日の昇格試験の帰りに馬車を待っている間、6等級パーティーの女の子達に声を掛けられた時と似た状況だ。


 正体不明な魔族の件とかは言えないが、武闘大会については特に隠すことはないので予備予選からじっくり話すことにした。




……


…………



 ギルドを出た俺は内城に行くことにした。

 今日黒オーガを倒したことを報告するためである。

 受付にてナナイさんとの面会の手続きをするが、


「少し前に帰宅されましたよ」


 くっ?! ラック氏に捕まっていなければ……

 ナナイさんの自宅の場所は教えられてはいるが、そこまでするような件でもないので軽く経緯を記して明日渡してもらうことにした。



 内城を後にして家へと帰る間、ギルドの食堂でラック氏と冒険者達へした話を思い越す。

 武闘大会のことは予備予選と本予選2日目までのことは軽く流され、3日目の第1シードとの2試合と本選のことが中心となった。


『……それにしてもロッペンによく勝てたな。彼の素早さはかなりのものなんだが……』


『ラックさんは他国の冒険者事情にも詳しいので?』


 俺が本予選の準決勝で対戦したロッペンはアルタナ王国出身の獣人で元2等級冒険者だ。


『他国の冒険者と言っても護衛依頼などでこの国に来ることはあるし、交易商人からも情報を仕入れられるからね。

 もちろんこちらの持つ冒険者の情報と引き換えにだけど』


 この人は冒険者ギルドだけではなく交易商人とも情報のやり取りをしているのか。


『ロッペンがいたパーティーは近々1等級昇格間違いなしと言われてたのだが、数カ月前に突然解散してね……』


『本人と話す機会があったのですが、メンバーの事情でパーティーが解散することになって冒険者を辞めたんだそうですよ』


『そうか。

 死傷者が出たのではない円満な形でパーティーが解散したなら目出度いことだ』


『今はたまにギルドで指導員をしていると言っていました』


 多くの冒険者を知っているラック氏はパーティー解散の悲しい事例もたくさん見聞きしているのだろう。


『そして本予選決勝の相手はチャルグットか。聞いたことのない名だが……』


『帝国の元軍人です。ラックさんでもご存知ありませんか?』


『さすがに軍関係まではわからないよ。普通の人でも知ってるような有名人なら別だけど』


 この人の専門はあくまでも冒険者ってことか。


『魔術士が本予選を勝ち抜くなんて聞いたことがない。

 向こう(=アルタナ王国)では随分と騒がれたんじゃないか?』


『冊子の取材に来たライオネル商会の人には凄いことだと言われましたが、周囲の反応はそれほどでもありませんでしたよ。

 本選の時に自分にも多少声援があったぐらいですかね』


『その本選だが、初戦の相手がいきなり影のセリュドゥクとは運が悪かったね』


『よくわからない内に負けてしまいました』


『幻影流の影移動は地味だが強力だからね。感覚が優れている獣人以外では極めて対処は難しいらしい』


 セリュドゥクはコートダールの軍人だが、ラック氏でも知ってるぐらい一般人の間でも名が知れ渡っている。

 本予選1~8組の第1シードは有名人気選手が配されていて、会場チケットの売れ行きにもかなりの影響を及ぼしていた。


『どうだい? 次対戦するとしたら勝てそうかい?』


『難しいと思いますよ。

 影移動中であれば魔法を舞台上にばら撒くようにすれば当たるかもしれませんが、いつ影移動をするのかがまったくわかりませんからね』


『次の大会まで2年間あるんだ。これから有効な対応策をじっくりと考えればいい』


『ちょ、ちょっと待ってください!

 自分はもう大会に出場するつもりはありませんよ?

 今回の結果でもう満足していますし』


 周囲の冒険者から不満の声が上がる。

 武闘大会中にも思ったことだが、模擬戦や試合という枠組みの中ではこれ以上強くはならないような気がしている。

 努力すれば変わった戦い方や目先を変える魔法の使い方を考案できるかもしれないが、それよりも実戦における強さを追い求めるべきだろう。

 今回出場したのも伯爵の推薦状を貰うためだし。


『それは残念だな。

 しかし次の開催地はコートダールだが、その次4年後の開催地はこの国(=ベルガーナ王国)だ。

 自国開催ともなるとギルド本部から出場要請が来ると思うぞ』


『自分に要請が?』


『ああ。この国は南部3ヵ国の中では冒険者の質や数で1番劣っている。

 武闘大会が自国で開催される時でさえ軍人任せで冒険者の目立った活躍がないので、ギルド本部は肩身の狭い思いをしているのさ』


『優秀な冒険者がコートダールに集まるのは知っていましたが……』


『この国とアルタナ王国は冒険者の数やギルドの規模は同程度なんだが、質においては開きがある。

 あちらは獣人族を多数抱えているのでその差は大きい』


 周囲にはいつの間にか10人以上の冒険者が集まっていた。

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