第317話

「ヨロムーグ、この魔法を習得できるか?」


「試してみます」


 ヨロムーグがウインドランスを回転させる。

 新魔法を密かに練習していたのかここまではスムーズだ。

 次は回転させながら圧縮していく工程なんだが、すぐウインドランスは霧散してしまった。

 魔法の大きさ? というか威力が小さいのが原因だ。


「このぐらいの大きさでないと圧縮は上手くいきませんよ」


 ヨロムーグのウインドランスは強化する前の俺の風槍(回転)よりも小さかった。

 再び強化後の風槍(回転)を見せる。 


 ヨロムーグが俺の風槍(回転)をよく見てウインドランスを発動させる。

 大分改善されたもののまだ小さいというか威力が足りないというか……

 どう表現したらいいのかわからないが、とにかく物足りない感じだ。


 そのまま圧縮させていくが……

 途中でボンッと弾けてしまい、その余波が離れた場所まで伝わってきた。


 失敗はしたもののさすがは元2等級だ。

 たった2回でここまで出来るなら、1週間もかからずに風槍・零式を習得できるだろう。

 ヨロムーグはチェイスの魔術士より魔法の腕は上だな。

 年齢差によるものだろうか?

 ゼアータさんが『魔術士は40歳超えてからが全盛期』って言ってたっけ。


「あとはウインドランスの威力を上げることと、圧縮することを繰り返し練習すれば習得できそうですね」


「…………いや、私ではこの魔法を使いこなすことはできないだろう」


 ん??


「ヨロムーグ、どういうことかね?」


「仮にこの魔法を習得したとして、私の魔力(=MP)量ではおそらく魔法を発動させて即的に当てる、ぐらいのことしかできません。

 敵に当てるために魔法の発動を維持したり繰り返したりは無理です。

 当然他の魔法も使えなくなります」


「むぅ…………」



 この風槍・零式は普通の魔術士には無理なのでは? とある程度は予想していた。

 強化した風槍(回転)はただでさえ魔力消費が激しいのに、そこからさらに超圧縮してその状態を維持するのである。魔力を湯水の如く使用するのだ。

 鑑定スキルがないことで他人の魔力量がわからないことと、地味スキルのMP回復強化とMP消費軽減のおかげで他の魔術士が使用する際の魔力量も不明だ。



「結局のところ近接戦闘能力と魔力量、この2つを兼ね備えた魔術士でないとこの魔法は使いこなせないわけだ」


「そのような逸材が現れたらこの魔法を習得させてください」


「私の目の前にその条件を満たした魔術士がいるのだが?」


「その魔術士はギルドに飼われるつもりはないようですよ」


「…………」


「…………」


 どうしてレドリッチとこんな不穏なやり取りをしないといけないのか。


「……この件はひとまずこれで終わりにしよう。

 今日はご苦労だった。帰って休みたまえ」




 建物を出る前に受付に寄る。

 もう冒険者達が今日の依頼を終えて完了報告をする時間帯なので受付は大混雑だ。

 各窓口が長蛇の列の中で、列が明らかに短い窓口へと並ぶ。空いてる理由は窓口の担当者がおっさんだからだ。


 自分の番が来たので4等級の冒険者カードを見せる。


「本日はどのような御用件でしょうか?」


「3等級のグリードさんと連絡を取りたいのだが」


 グリードさんが惚れてるサリアさんが、冒険者を辞めてバルーカから王都の北にあるナラチムへ移ったのを教えてあげようと思ったのだ。ついでに自分が4等級に昇格した報告も。

 ところが、


「彼らはメンバー募集のために他所の街へ赴いていますよ」


 バルーカにはいないのか……

 以前パーティー名は新メンバーを見つけてから決めたいって言ってたっけ。


 ※3等級からパーティー名をギルドに登録できる。瞬烈・烈火・武烈・チェイスなど。


「魔術士をパーティーに加えたいらしく……」


 グリードさんのパーティーは全員が近接戦闘職だ。

 その中で最年長のモイヤーさんは回復魔法を使えるが、パーティーとして攻撃魔法や収納魔法を使えるちゃんとした魔術士を加えたいのだろう。


「見つからないようなら護衛依頼を受けながらコートダールや帝国まで行くみたいですよ」


 かなりの期間腰を据えて魔術士を探すみたいだ。

 武闘大会で対戦した元2等級のロッペンも、上位等級でメンバー募集しても応募は来ないって言ってたな。

 まして腕の良い魔術士となると探すのは大変だろう。


「彼らは大まかな行程を提出していますのでご覧になりますか?」


「いえ、大した用件ではないので結構です。ありがとうございます」


 サリアさんのことはグリードさんが帰って来てからでいいだろう。




「やぁ!」


 受付から出口へ向かう途中で男性に声を掛けられた。


「あっ!? 昇格試験の解説の……」


「ラックだ。初めましてというのは少し変な感じか。

 今ちょっといいかな?」


 5等級昇格試験とグリードさん達の3等級昇格試験の時に解説を務めていたラック氏だ。

 断る理由もないので受付の反対側にある食堂に入る。

 奢るから何でも頼んで欲しいと言われたが飲み物(果汁水)だけにした。

 おっさんと食事するぐらいなら家でルルカの手作り料理のほうが断然いいに決まってるし!


「まずは4等級昇格おめでとう」


「ありがとうございます」


「昇格試験が依頼だったのには驚いたよ。

 模擬戦だったら解説してたのに残念だ」


「依頼で昇格というのは珍しいですか?」


「4等級昇格試験で、というのは聞いたことがないな。

 2等級とかではたまにあるけど」


 上の等級ではたまにあることらしい……


「上位等級は中々対戦相手が見つからないからね。日程の調整も大変だし。

 コートダールや帝国まで昇格試験を受けに行くパーティーも多いよ。あちらはこの国よりも冒険者の数そのものが多いから必然的に上位等級パーティーも多くなる。

 グリードのパーティーもあのまま対戦相手が見つからなければそうしてたはず」


「ひょっとして4等級昇格試験の依頼内容のことを聞きたいとかですか?」


 この人は冒険者の情報を収集するのが趣味なんだっけ。

 その情報をギルドが買い取ってるらしいし。

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