どうしてすぐ確信しちゃうのかってそうしなきゃ話進まないからじゃね


 熱にうなされるように、何度か苦しくなっては置き、体力がすぐ尽きる感じですぐに意識が落ちる。状況や周りを把握する余裕など当然なく。

 そんなことを何度繰り返したかわからぬ末に、起きても熱でぼぅとしている感じになってどうしようもないから、今度は自分の意思で目をつぶる。

 何か食わされていたような、というよりも世話をされていたのだろうことはおぼろげながら覚えている。看護される状況にはいるらしい。


 今まで健康的に生きてきて入院とかしたことない系大学生男子的には、食事の世話から下的な世話までしていただくというのは恥ずかしい思いもする。が、思い出したくもなかったがそういえば私って今……子供の体になっていた! 状態じゃなかったっけと思い出し、私の体じゃねぇなら別によくない? と開き直った。開き直るしかないともいう。旅の恥は掻き捨てっていうじゃないか。私、インドア派だから実際の旅がそうなのかとかは知らないけど。

 最後の言葉を吐いて消えた、子供っぽい何か別の奴。というか本体っぽかったやつ。もうそいつはいない。それがはっきりわかる。どうしてか、わかっちゃう。ちょっとしんみりしちゃう。

 しかしもっていない以上、私の体だといっていい状態かもしれない。が、自由に動けたのがこうなる前の短い期間だったので実感がない。

 ……というかだね、本来のというか、大学生男子な私のマイボディはどうなっているのだろうか。そっちのほうが気になるんですよね。抜け殻なの? ほかのだれかがインしちゃったりしてるの? どっちでも嫌……嫌じゃない?


 これはいわゆる憑依とかいうやつなのだろうか、と読み漁ったりもしたネット小説などの類でよく使われていた設定などを思い出す。

 こういうパターンだと、憑依したことに申し訳なく思うやつがいる設定が多いのが個人的には本当に謎だったので、共感できなくて……ストレスを避けるためにあまりそういうのは読んでいないのが残念だ。読んでおくべきだったか。いや創作と現実は違うのだろうけど、そういう知識がある方が安心できたかもしれないという意味で。でも予想できないやん。自分がそうなるって本気で思って読んでるやつのほうが怖いやん。せやろ。つまり私のせいではない、閉廷っ! 閉廷っ!


 こうして憑依しているのだろうと思われる現象にあっても、やはり私は申し訳なく思う理由がないという判断なので、全く思えない。非情でしょうか。いいえ、むしろ情がありありだったと思います。

 私が私の意思で憑依したのなら、私の決断だからそもそも罪悪感を持つ理由はないし、持っていたらおこがましいと思う。ならすんなよというはなしだからである。

 自分の意思でない事故や他者が行ったことならそもそも自身は被害者の一人だ。悪いのはそれをした人物であって、それをされた側が過剰に罪悪感を過剰に抱くのは違うだろとしか思わない。例えばこれがばれでもして何か罵倒をはかれても、正直『逆恨みうぜぇ死ねカスゴミボケ』としか個人的にはいいようがない。言い過ぎ? そんなことないはずだ。実際いうかは置いといて、思うくらいするやん。理不尽に抗ってこうぜ。

 何か違うことをしようとして自分で事故を起こした結果こうなった、とかなら罪悪感とか過剰に罪の意識を持つのはわかる。それは自分に責任があると素直に思えるからだ。だがそうした覚えはない。

 現に可哀そうと思いはするが、憑依したことへの罪悪感とか乗っ取り状態であることの罪悪感とかはまるでないし、今後も湧くことはないだろう。幼い子供がなくなってしまったという悲しさと虚しさのようなものはもちろんあるけどさぁ。

 僕の、せいで……! とかなるのは、ちょっと無理っていうか。意味不明な方向で自意識過剰だと思ってしまう。私にそんな憑依する力はなかったと思うし、したいと思ったこともないのでむしろこれが消えた意識がやったことなら手のひら返して怒りすら覚える。


 などということを考えながら、寝たり起きたりしていた。

 そうしていると、何日経過しているのかはわからないがようやく動けるくらいには回復してきた。やったぜ。寝たきり生活回避フラグだ。状態からそうなってもおかしくはなかったというか可能性あったとおもうんだよね。酷かったっポイし。あれかなー、魔法的サムシングなのかなー。

 そんなこんなで起き抜けで手をぐっぱーぐっぱーとしていると、横に成人男性が座っていることに気が付き、目が合った。

 一瞬すごい気まずい。あれよ。誰もいないと思って熱唱してたら後ろから追い抜かれました、みたいな気分よ。


「調子はどうだ?」


 イケメン死すべし、ィィエェェェェイミェェェェン! ヒャァアアアアアアア!

 という気持ち悪いテンションがでるくらいのイケメンが、優し気な表情をして話しかけてきていた。

 切れ長の目で、造形的には黙って睨まれでもしたら震えあがるくらい怖そうになるんだろうなということがわかる、悪役が似合いそうな冷たい顔立ちのイケメン造形なのだが、今は微笑みとあたたかな雰囲気をぶっ放している状態なのでまるでそういう印象を抱くことができない。


 相手はイケメンだというのに何か安心すら覚えてしまう。悔しい。などと混乱を治めるために脳内はボケ倒していたが、もちろんそんなボケた思考を表に出すほど取り乱してはいない。

 そして、このイケメンは見覚えがあった。

 衝撃憑依体験! の最後に出てきたの火と血のニオイを纏っていた体が冷え性なのかな? なすまない連呼さんだ。意識が途切れる前に印象に残っていたから間違いない、はず。

 じぃーっと見ながらわからないと言いたげに首を傾ける。別に幼児の演技を絶対にしなければ! などということは考えてそうしたわけではない。単に喉がまだ引きつっているような感じがして喋りたくないだけだ。ひりつきますねぇ! な感じなのだ。実際辛い。演技を特にする気はなかったが、悪意も感じないし、どっちかっていうと優し気に接されてるなら手抜きしてもいいやろみたいなのもある。まだ体調万全じゃないのだから許してほしい。すまんな。


「……自分がだれで、私が誰だかわかるかい?」


 それはどういう質問なのだろうか? このイケメン、有名人だったりするのかな? にしたって一、二歳時アピールするこっちゃないと思うけども。いや実際二歳なんかも知らんけど。

 首を反対方向にひねる。首大活躍。動くでこの首!


「……そうか」


 その一瞬した悲しそうな顔はそれが答えと判断されてしまったという証だった。

 お? 待ってくださいよ。と、少し焦ったが、いやこれ別に結果的にそれでいいのではと思い訂正するのをやめることにする。実際知らないし。

 おそらくは、衝撃的な光景を見て理解できていない状況か、幼児だからそもそも何もわかっていないと思われたか。

 それともショックで記憶が飛んだと思ったか。ショックだったのは事実だけど記憶は別に飛んでないけども、言わなきゃわからないから。

 正解は中の人が別になった、であるわけだけどそれを素直に喋る必要はないし、結果的に今までのこの体の経歴を知らないという状態にかわりはないので問題なかろう。


「…………私は……私は、君の…………お父さんだよ」


 な、なんだってー!?

 と言いたくなる発言である。

 長い沈黙の後、かなりためらうようにして、何度もためらい、やめようとして喋ろうとして、そういうことを繰り返して絞り出されたのは、違うと知っている言葉。

 だって、私の親は別世界だし、この体の親は転がってたと知ってる。

 声には、何か強い決心が表れている。鈍い自分にも感じ取れるほどに。


 あぁ、この人は優しい人なんだろう、きっと。少なくとも私に優しくあろうとしている人なのだと思う。

 あの倒れていた両親らしい人達と知り合いだったのかもしれない、深い仲だったのかもしれない。もしかすると職務であそこに来ただけかもしれないが、最後の慟哭は、職務で間に合わなかった申し訳なさから洩れた謝罪というより、間に合わなかったために近しい存在がいなくなってしまった嘆きといったほうがしっくりとくる。


 でも、こんな幼児と友情などを結んでいたという事はないと思う。

 だから、これは私に――この体の子に、あるいはそうすることで仲が良かったかもしれない両親に、気を使ったのだ。

 傷が深くならないように。

 できれば、傷があることにすら気付かずにいられるように。大きくなったら、正直に喋ることもあるかもしれない。やがて見せようとするかどうかは定かではないが、そうだとしてもそれまでのモラトリアムをくれようというのだ。


 それは、背負うに重い優しさだ。ただ反射的にそうするには、あまりにも。

 例えその両親と親友と呼べる関係とはいえ、子供まで背負う義理はない。もし、孤児院に預けても文句を言われることではない。むしろ、連絡先をくれて困ったら連絡してきなさいといわれるくらいでもかなり温情であり、情が深いといえる。


 身内にするというのは、家族になろうというのは、とても重いことだと思う。人一人、自分の意思で背負わなければいけないというのは。しかも、真実を隠して。

 そして、それが嘆くほど大事な人の面影を持つ残されたものなのだ。きっと、知らない誰かを迎え入れるよりはある意味、重くて潰れてしまいそうになるくらい重いはずなのだ。

 そうしたくなっても、なったとしても、思い付きでやるべきではない選択。


「おとー、さん?」


 喉が詰まって、とぎれとぎれになったが、だからそう問いを投げた。

 伝わらないだろうが、確認の意味も込めた。本当にそれでいいのかと。


 大学生がいう台詞でもないが、子供というものは、罪悪感や良心の呵責だけで背負うには重すぎるからだ。

 たとえそれが、自罰的になりたいと思った結果だとしても。

 贖罪のためだったとしても。

 父としてふるまって、本当の良心が死んだことすら隠そうするのが目的なら、なおさら重くのしかかってくる事だろう。


 正直、呼びかけることで、重いと感じる顔をしたのなら、違うと否定しようと思った。

 私は結構下種よりの人間だと自覚している。自分の命が大事だし、それをさておいてもとにかく楽をしていきたいし、そのためならほかの人間を犠牲にすることもあるだろう。状況はわかっていないし、きっと、願望も含めているが、この人の子供として存在したほうが安定して生きれるのだろうとは思う。

 思うが、なんというか、それでもできるなら私は私に優しい人が損をするのは基本的に嫌いなのだ。私に厳しいなら救える位置にあっても無視できるし、なんなら崖から落ちそうな状態のやつに小便かけるくらいできる極端な人間ではあるが、それは今はいいだろう。いいだろうが。


 もっと意識もはっきりしていれば――というか、もっと現実感があれば、計算してやらなかったかもしれない。しかし。しかしだ。今の私はちょっとまだぼぅっとしていることだし。やりたいようにやった。

 もとより、話の内容的に両親がやられたのは逆恨みの結果っぽかったし、私は罪悪感がなくともではないのだから。ぼんやりした頭的に、それを『便利だから』と利用したい気分ではなかったのだ。

 罪悪感を持つ必要など、この人にはないのだから、と。そう思える程度の人間性があったらしいのだ。自分でもびっくりだよ。うへへ、金持ちっぽいし楽できそうやんそこにつけこんでなぁ! ひゃっほい! とか普段やりそうって自覚してるのに。


「あぁ、お父さんだよ」


 だが、結果的にイケメンは微笑みを維持した。ゆっくり、ゆっくりと頭を撫でた。そう名乗った時と違って、間もほぼなかった。躊躇というものを、みじんも感じないそれ。

 なるほど、覚悟完了してしまったのか。してしまっていたのか。あの葛藤のような名乗りで、すでに。


 いつか、やめたくなるかもしれない。どれだけ続くのかはわからない。人の感情は曖昧なものだと思うから。

 でも、まぁ、こんな意味不明な状態でもこういう人なら安心できるかなと思った。罪悪感があるなら、いつか消えてほしいなと思えた。

 こんな短時間でイケメンにほだされしまうことになるとは。悔しい。


「……ぼく、の。な、まえは……?」


 重要なことだから聞けるタイミングで聞いておこう。多分、不自然ではなかろう。

 私の問いに、イケメンは『ふっ』と一度息を漏らすように微笑んだ。クッソ似合っているのが逆に腹が立つという謎の現象。


「あぁ、名前だね。そうだね、まずはお父さんはゼラニウム・ブルーデイジーっていうんだ」


 ――――んん?


「そして――カモミール。カモミール……ブルーデイジー、それが君の名前だよ」


 わー、お花がいっぱいの名前だね! なんて無邪気に返す余裕は全くない。

 本当に? 間違っていないか? そんな問いを返したくなった。


 信じられないし、信じたくない。


 いやその微妙な感じの名前って最近やってたゲームのキャラとおんなじなんですけど……?

 いやちょいちょい顔とか場所とか景色とかに引っ掛かりは覚えてたけど、そんなの気のせいでしょって思って所なんすけど……


 い、いや、ちゃうやん。たまたまでしょ? たまたま同姓同名ってオチなだけでしょ、憑依経験ファンタジー! みたいとはいえ、安直につなげるのは馬鹿のすることよ。パズルピースはまだ足りてないやん。まだワンちゃんどころかチャンスはあるある。ありますねぇ! あるっていえよ。

 と、現実逃避できたらどれだけよかったろうか。


 炎。氷。

 悪役顔。

 名前。

 服をよくよく観察すれば、花の紋章の小さな勲章のようなものがイケメンに装備されているのもわかっちゃう。

 他知りえた地名等々……


 全部がっちりはまる。はまっちゃうのだ。頭の中でそんなパズルががちがち自動で完成させられる。パズルの楽しみって試行錯誤でしょ! 自動パズルなんて誰が楽しいんですか! 

 そんな能力はなかったはずなのに、どうしてかこのイケメンを3Dでモデリングして二次元っぽくしたらそうなるだろう、という事もわかってしまったのだ。

 あぁ! 空間認識能力みたいなのアップしてるぅ! そんで誰だ、ファンディスクで悪役の父親の過去の姿なんて描写したスタッフは。呪われろ!

 私は今、ひどく精神が乱れています。


 うっそやろ、ばかだろ。


 頭は大混乱である。

 その私にあたるゲームキャラは、悪役なのだ。


 私だね。私がメイン悪役だね。思った通りになるのなら。はは。


 なにわろてんねん。


 これが予想通りであれば、これってテンプレ系憑依と思ったらさらに追加でテンプレ悪役系なやつでしたとかいうオチですか?

 ゲーム悪役憑依もの。ぼく知ってる! ネットとかで見たことあるやつ!

 ファック!

 今更流行んねぇよ! 流行りすたりでいや、だいぶ前でしょ。やめとけよ地雷認定されるのが落ちだって。

 ね? だから早くおうち帰して。小説ならこんな展開この辺りでブラバ展開余裕でしたスコップ折れます! でしょ! いい加減にしろ! でもおもしろいのもあるからもうちょっと気が向いたらたまには掘ってみたらいいことあったりするかもね!


 偶然偶然同姓同名の人にファンタジー憑依した可能性はもう本当にないの?


 いやいや、父君も一緒で知っている設定の服やらてんこ盛りで同姓同名ってどんな確率だよ。いや、そんなこと言ったらファンタジー憑依の時点で頭いかれてるでしょ。なら逆説的に異常が本当になったほうがいいまであるのでは? 直前まではまってたゲームとかってのがフラグにしか思えないわけで。

 確率がドンでフラグ回収ですね、やだー!


 あ、ダメだ取り乱しすぎたかコレ、意識が遠のいてきた……

 いきなり見知らぬ土地で文化で子供ってだけでも無理なのにゲーム設定とかもう――

 起きたら全部夢で――


 気絶してばっかりだな。

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君が悪役だってことを君しか知らないならそれは悪役じゃなくない? ほんのり雪達磨 @yokuhie

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