ちぎられた光源
@_naranuhoka_
ちぎられた光源
雪の日は肺胞すべてがひかりだす Francfrancの照明のよう
筆記体の粗さで生きてきたくせに楷書で記す履歴書狭し
遺影みたい帰りの車窓に映る顔 星座のように浮かぶ町の灯
マイナビのお知らせが来て友達の額のにきびに視線を逃がす
リクスーが作業着になる しゃぼんだまが割れて散るまで目で追ってしまう
セックス死体に誤変換され諦める 威嚇のようなツイートの保存
コンセント引き抜くように立ち上がる 好きでもないのにスタバのコーヒー
まっとうって間抜けな響き「作家になれば」って言った人許さない
シャツに響かないブラジャー シンバルのような形でわたしを守る
持っていない花束高く放り投げ口にできないラブホテルへ行く
ついた嘘を思い出しては畳み込む昔なかったふたえの線に
面接に落ちた日やたら耳に残る【2分後に次の列車は参ります】
特技を訊かれ不揃いな小石並べるようためらいながら仏語で話す
売春の文字美しいこと限りなし 句点のようにショーツを脱いだ
行きたいと生きたいは同じ音である 救いがほしくて芍薬を買う
濡れた傘満員電車で脚に触れる許せないわたしを許すのもわたし
起き抜けのキスはするけど朝飲んだペットボトルはもう捨てちゃった
セックスのあとに受けとる二万円 お礼を言えずナビタイム見せる
林檎齧る他国の領土奪うように あまりに性器は傷口に似て
小銭くずすためだけに買う缶コーヒー 好きでもないのにキスしてごめん
縦書きでキッチンタオルに書く伝言 げんきでね残りのゴムはもらうね
もう二度とひらかないのに栞挟む 本気で嘘をつく気はあった
熱心に啜られながら蟻の巣にジュース流したこと思いだす
野良いぬのおしっこかかったすみれ摘む自分を守れぬ性病検査
ポスト前で年金督促状を剥がす夕陽が一緒に射し込みたがる
るりるりと光る硝子のイヤリング泣きたいときに泣く贅沢よ
くちづけの順序を逆算してつける花びらみたいにやわいブラジャー
わたしより可愛くない子が脱毛をすすめるポスターゆっくり通る
街灯が選ばなかった道を照らす止まらないかぎり倒れぬ自転車
ちぎられた光源のようで手を伸ばす キスする角度で気づいた初雪
飛行機が引っ掻き傷として夜をゆく憐れなところを愛してしまう
覚えてる?バニラのトラック通り過ぎシビアな会話が途切れた一瞬
私信代わりにアイコン変える東京の一部になれたしねこもさわれる
新雪に倒れこみたい抱きとめる形をしているソファーを買った
車窓のかたちに光が床へ落ちる足湯のようにブーツをひたす
2020短歌研究新人賞応募作/二首入選
ちぎられた光源 @_naranuhoka_
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