第24話

 (※リズ視点)


 私は、お父様とお母様と共に、憲兵について歩いていた。


 目的の場所は、私のお店である。 

 いったいそこで、何をしようとしているのかしら……。

 私は不安な気持ちになっていた。


 お店に着いた。


 電気がついている。

 誰かが中にいるようだ。

 私たちは、お店の中に入った。

 すると中には、お姉さまと憲兵、それに、クレイグがいた。


「どうしてあなたが、ここにいるのよ…」


 私は呟いた。

 彼は既に、連行されてどこかへ閉じ込められていると思っていた。

 どうして、こんなところにいるの?


「リズさん、あなたに一つ、聞きたいことがあります」


 憲兵が、私を顔を覗き込むようにして言った。


「どうしてこれが、この店にあるのですか?」


 憲兵がそう言って見せたのは、お姉さまから奪った商品を入れたバッグだった。

 クレイグが、ここにあると、憲兵に話したのね……。


「さあ……、どうしてかしら……。見当もつきません。でも、そうですね……、クレイグはこの店の鍵を持っているので、盗んだあと、ここに隠していたのでは? もちろん私は、彼がそんなことをしているなんて知りませんでしたが……」


 大丈夫、落ち着いて対処すればいいのよ。

 クレイグがこの店の鍵を持っているのは本当のことだ。

 実際私たちがこの店に着く前に中にいたのだから、彼がポケットに入れていたカギを使ったのだろう。

 この店に盗品があるからといって、それを私たちの仕業だと結論付けることはできない。


 彼はこの店の鍵を持っているし、ほかに証拠なんて、何もないのだから……。


 哀れね……、クレイグ。

 もしかして、私たちを道連れにしようとでもしたのかしら……。

 どこまでも、醜い人ね……。

 そんなのは無駄よ。


 実行犯はあなただけ。

 私たちが関与していた証拠なんてない。

 どうやら悪あがきをしようとしたみたいだけれど、無駄に終わったようね。


「まあ、このバッグがこの店にあるからといって、それで即、あなたたちが犯行に関与していたなんていうことにはなりません」


 私は憲兵の言葉を聞いて、安心していた。

 やっぱり彼のあがきは、無駄に終わった。

 私は動揺せず、完璧に対処した。

 これくらいのことでボロを出す私ではないのよ。


「しかし、彼がどうしても、あなたたちにこの場で言いたいことがあるのだそうですよ。なんでも、あなたたちがこの計画に関与した証拠があるのだそうです」


「……え?」


 私は唾をのんだ。

 証拠ですって?

 そんなもの、あるはずがない。

 しかし、あるはずがないと思っていても、不安な気持ちになっていた。

 となりを見ると、お母様もお父様も私と同じような気持ちなのが、表情から察することができた。


「この三人も、この計画に加担しています。確かに盗んだ実行犯は僕でしたが、彼女たち三人も、罰せられるべきです」


 クレイグは私たちの方を睨みながら言った。


「な、何が証拠よ。そんなもの、あるはずがないわ。そう言ったら、私たちが自白するとでも思ったの? そんなおことしても、私たちは自白なんてしない。そもそも、私たちは何もしていないんだから」


「そう言っていられるのも、今のうちだけだ」


 彼は冷たい視線を私に向けたあと、憲兵に拘束されたまま、歩き始めた。

 彼が向かったのは、店のカウンターの方だった。


「このボタンを、押してもらえますか?」


 クレイグは、隣にいた憲兵に言った。

 その憲兵が、ボタンを押すと……。


『さすが私の見込んだ男だ! 君ならやり遂げられると思っていたよ! マーガレットも驚くだろうな!』


『あぁ、これで、ようやく商売が始められるわ! リズはこんな素敵な人に愛されているなんて、幸せものね!』


『ありがとう、クレイグ! あなたのおかげで、私たちは、新たなスタートを切ることができるわ。お姉さまも商品がなくったことに気付けば、驚くでしょうね! その顔を見られないのが、残念だわ』


 店に置いてある録音機に録音されていた音声が流れた。


 冷や汗が流れ、足元が震えていた。

 なんなのよ、これ……。


 流れた音声は明らかに、私たちの声である。

 これは充分に、私たちが計画に加担していた証拠になる。

 お店にはクレーマーの人が来ることもあるから、カウンターには録音機を置いているけれど、まさか……、それをあの時、録音状態にしていたの?


「クレイグ! 私たちを裏切ったわね! なんて人なの! 最低だわ!」


 私は彼に叫んだ。

 大人しく一人で捕まっていればいいのに、私たちを道連れにするなんて……。


「そうだぞ! 息子同然に扱ったのに、なんて仕打ちだ!」


「私たちまで巻き込むなんて、酷いわ!」


 お父様もお母様も、クレイグに叫んだ。

 こんな証拠があったなんて思わなかった。

 もしもの時のために、こんな準備をしていたなんて……。


「ふざけるな! 僕のことを裏切ったのは、お前たちの方だろう!? 僕だけ売って助かろうとするなんて、絶対に許せない! 道連れにするのが当然だ!」


 クレイグも、涙を流しながら叫んだ。

 まさか、こんなことになるなんて……。


「あぁ、はいはい、家族で仲良く喧嘩をするのは、ここまでにしてください。聞くに堪えないので、続きは牢獄の中ででもしてください」


 お姉さまが呆れたようにため息をつきながら言った。

 私は唇をかんだ。


 お姉さまだけが、そちら側にいる。

 私たちがこんな目に遭っているのに、どうして……。


 私たちは逮捕されたのに、お姉さまだけが、何事もなく、これからも普通に暮らしていける。

 そんな……、どうしてなの?


 私たちは、邪魔者のお姉さまを排除して、自分たちだけで楽に暮らそうと思っただけなのに。

 今思えば、あそこから、何もかもが狂ったような気がする。


 こんなことになるくらいなら、お姉さまを追い出さなければよかったわ……。

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妹に婚約者を奪われ、お店の経営権までも奪われました。新しくお店を始めて妹の客を奪おうと思っているのですが、文句はありませんよね? 下柳 @szmr

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