第二章2『久しぶりのお客様』

自殺志願者の男は橋の手すりの外に立っていた。大体高さは十メートルくらいだろうか。水はあまり流れていない川なので十分死ぬことが出来る高さだ。

 

 流石にそんな場面を見たら止めるしか無い。天野は慌てて男の腕を掴んだ。

 

 「おいおい、何してるんだ、悪いことは言わないからやめとけ。」

 

 「アンタには関係ない‼︎ほっといてくれ。」

 

 随分追い詰められているようだがほっとくわけにもいかない。

 

 「とりあえずこっちに来い、困ってることを話してくれ。」

 

 「もう終わったんだよ。どうしようもないんだ。」

 

 「そんなことないって、一緒に考えるから。」

 

 ——————

 

 結局、三十分ほど説得し続け、やっと男は自殺をやめた。

 

 天野は男に話を聞くためいつもの喫茶店に行った。

 

 「で、どうしてあんな事しようとしたんだ?」

 

 「実は、一年付き合っていた彼女にプロポーズしたんだ。結果はお察しの通りさ。」

 

 なるほど、それでもう終わりだなんて言ってたのか。随分好きだったんだろうな。

 

 「止めてくれてありがとな、あの時はショックで何も考えれなかったんだ。確かに辛いけど死んだら終わりだもんな。」

 

 しかし、フラれたショックはよほど大きかったのだろう、男の顔は死んでいた。

 

 何か手助け出来ることはないものか…

 

 「あっ!やっちゃった!」

 「何やってるのよ〜」

 

 声のした方を向いてみると二人の女性が慌てていた。どうやらコーヒーをこぼしたらしい。ん?コーヒー…

 

 「ごめん、もしよかったらもう一人呼んでもいいかな?大切な話をしたいんだけども…」

 

 「………別に良いけど、誰を呼ぶんだい?」

 

 「えーっと、仕事仲間かな?」

 

 そう言って天野は電話をかける。もちろん相手は天然女真木だ。

 

 「もしもし?どうしたのこんな時間に、明日会うじゃん」

 

 「いや、今会いたいんだ、いつもの喫茶店にこれる?」

 

 「別に行けるけど何その言い方、告白でもするつもり?」

 

 でたな。この声、絶対に向こうでニヤニヤしてるぞ。

 

 「そんなわけねーだろ、出来るだけ早く来いよ!じゃあ」

 

 「えっ、ちょっ——」

 

 少し無理やりだったかもしれないが彼女にはちょうどいい。

 

 十五分後、真木は扉をあけて例のポーズで俺を探す。もう恥ずかしいとも思わなくなってきた。人間の適応力の高さには驚きを隠せない。

 

 「えーっと、この人誰?」

 

 初対面の人にこの人誰?とはなかなか失礼だな。ん?そういえば……

 

 「あ、そう言えば名前聞いてなかった…、俺の名前は天野啓太、君は?」

 

 「本当だな、すっかり忘れてた。

 俺の名前は羽山翔はやまかける、よろしく啓太。」

 

 「で?説明は?なんで私呼ばれたの?」

 

 「真木、久しぶりの『何でも屋』のお客さんだ。」

 

 「え⁉︎本当に?」

 

 そんなやりとりの中、翔は一人会話についていけず、ただ首を傾げている。


 「なあ、翔。そのプロポーズ、やり直せるとしたらどうする?」

 

 「そんなこと出来るならしたいもんだよ。」

 

 冗談交じりに翔はそういうと、少し寂しそうな顔をした。

 

 それならその願い、叶えることが出来る。

 

 

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時間旅行は計画的に 秋なめこ @akinameko

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