野球部は県の決勝で惜しくも敗退した。

 ソフトボールの交流試合は、今回は勝った。


 そんな夏も終わり、秋。

 吹奏楽部のナカヤマはひとり、市営の植物園に向っている。

 この日は父親との面会交流日だった。


「おう」


 いつものベンチで待っていると、約束通りに現れた。

 水色の西武ライオンズのキャップを被った〈父親〉。


「こないだは友達がいるところ、悪かったな」

「いいよ。そのうちそういうこともあると思ってた」


 ナカヤマは少し嬉しそうなのだ。

 でも、それ以上は何も言わない。


〈父親〉はナカヤマの隣に座り、持ってきたコーヒーを渡す。

 そして口数すくなく、ぽつりぽつりとお互いの話をする。


「あ」


 鳥のさえずりが聞こえた。


「ムクドリか」


 二人とも静かになる。

 ふいに〈父親〉がかぶっていたキャップを取り、ナカヤマの頭にのせる。


「……なんで?」


 ナカヤマが笑う。


「なんでムクドリ、うちの対戦相手の野球部の話、してるの?」


〈父親〉のキャップは、動物の話を時々拾うのだった。なぜかはわからない。


「でさ、なんでこの帽子、野球の話しか拾わないの?」

「さあ。野球帽だからかなあ」


 ムクドリ二羽は、しばらく注目の部員や今後の成長の予想を話していたが、やがて話題が変わると普通のさえずりに変わり、飛び立っていった。


 ナカヤマは〈父親〉にキャップを返し、まだ温かいコーヒーを一口飲んだ。

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鳥は高校野球が好き。 倉沢トモエ @kisaragi_01

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