明日は早くからソフトボールの交流試合の応援(県外なのでみんなでバスに乗るの)があるので、あたしたちはラーメン屋を出るとまた音楽室へ楽器を取りに行った。


「あのおじさん、すごいね」


 ミズキちゃんが唐突に。


「さっきのラーメン屋のおじさん。オカダくんに注目してたっぽいじゃない」

「あの店の常連なら、野球部の全員知ってそうっすね」

「弱小中、弱小中、って。なんでレギュラーになったのにそんなこと言われるんだろうと思ってたら、ちゃんと実力見せてくれたじゃない。私はよく野球わからないけど!」


 よかったね。


「いや」


 なんでそこで話の腰を折ろうとするナカヤマ。


「おじさんは知ってたんだ」


 何をよ。


「練習時のオカダくんのすばらしさを」

「練習まで見学してたの?」

「いや、」


 そうしてナカヤマが続けた言葉がこれよ。


「犬、猫、鳥の話を聞いて」


 ……ん?


「朝練の様子はまず、学校の周りを散歩している犬が詳しい」


 ナカヤマ、時々聞き手を無視するよね。


「オカダくんは朝から黙々と美しいフォーム練習を見せてくれるそうだよ」


 うん。スポーツは応援するだけだから、すごさがいまいちわからないんです。


「次は猫だ。

 野球部は河川敷まで走るけど、そこにいる猫たちが真面目な一年生を好むらしい」


 猫って気まぐれイメージだけど、真面目なのか。


「鳥は。

 言うまでもなく一日中町内を往来しているから、一番野球部に詳しいといえるだろう」


 そう?


「そのカラスや雀、セキレイなんかの噂を総合すると、そこでもオカダくん推しらしいんだ。

 というわけで、オカダくんの活躍はそこから予想されたというわけ」

「ちょっと待ってください先輩」


 ヤマダはここでも表情に乏しい。


「あのおじさん、動物の話を理解するということでよいですか」

「うん。そうらしい」

「ラーメン屋で知り合った高校生にそんな話するなんて、面白いおじさんですね」

「そういうことなんだよ」


 ほら話系のおじさん、めずらしいなあ。


「そうか。そんな常連さんもあのお店に」


 ミズキちゃんがしみじみする。


「この楽しさを忘れないで、明日もがんばろうね」


 そして、なぜかいい話にまとめたがる。いいんだけど。


「今日は疲れ取って、家で自主練できる人はやって、明日も熱中症対策しながらよろしくね」


 明日は曇り空が切れて晴れ間が見えるそうな。天気予報ではそう言ってた。

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