○○○殺しのガーゴイル~俺をその二つ名で呼ばないで!~

禁煙大佐

○○○殺しのガーゴイル~俺をその二つ名で呼ばないで!~

 俺はガーゴイルである。名前はまだない。

 

 ただ、俺には何故か前世の記憶がある。だからと言って特別に何か出来る、と言うことも無かった。

だって、基本石になってるからね。侵入者が来たときだけ石化が解けて動けるようになる。

 

 ここが何処かはわからないけど、動けるときに後ろに見えたのは如何にも魔王城っぽいお城だった。この辺って常に太陽が見えないし、ゴロゴロと雷が鳴ってるしね。

 あとは、前には大きな門が見えるし俺はこのお城の門番なんだろうと思う。左にも俺と同じガーゴイルが居るけど、こいつに意志があるかはちょっとわからない。だって、喋れないし。あと、よく壊されてるし。

 

 この身体になって分かったことは、まず人を殺すことに対する忌避感が無いこと。このお城は出ていく人はいないのに、良く人が来る。まぁ、みんな侵入者っぽいけど。だって、みんな武装してるもの。

 

 だから、その侵入者の排除が俺の仕事ということだ。だが前世の母の言い付けである『女性には優しくしなさい』と言う教えに従って、女性はある程度痛め付けると逃げて行くので、そのまま見送ることにしている。男は殺すけど。

 たまに、ほぼ毎回壊されてる隣のガーゴイルが逃げて行く女性に襲い掛かろうとするから、俺が壊してたりする。

 

 隣のガーゴイルは凄く弱い。このガーゴイルの身体は物理攻撃にも魔法攻撃にも滅法強いはずなのに、お隣さんは動きが単調過ぎて集中攻撃でよくやられている。攻撃も引っ掻きと噛み付きくらいしかしない。

 それに対して俺は、最初の頃はお隣さんと同じような感じで死にかけたりしたけど、フェイントを駆使したり相手の武器を奪ったり、お隣さんに襲い掛かっている隙を狙って攻撃したりといろいろ工夫して頑張ってた。そうして侵入者を倒していくうちに、いつの間にか魔法が使えるようになっていたり、身体能力が上がったのか機敏に動けるようになった。侵入者の攻撃も痛くなくなったし、この世界はレベルみたいな概念があるのかな? ステータスとか見れないけど。

 

 そんな感じで俺はここで多分数十年ほど過ごしていると思う。初めて会った時は魔法使いのお姉さんだったのが魔女っぽいお婆さんなってるし。毎回ギャーギャー騒ぎながら魔法を撃ってくるから、この人は煩くてあんまり好きじゃない。

 

 そして、最近良く来るのがこの金髪で真っ赤な瞳の少女だ。銀色で金の意匠の入った甲冑を身に付け、自身の背丈を超える大剣を持っている。

 彼女は一緒に来た仲間を門の外に待たせ一人でやって来た。最初の頃はヤバかった。体感で三日三晩闘い続け終始押され続けていた。そして俺が体勢を崩し、

 

――殺られるっ!

 

 と、思ったら。彼女は、

 

「お腹空いた……」

 

 と言い、門の外へと帰っていった。俺は彼女の後ろ姿を呆然と見送ることしか出来なかった。

 その後も彼女は幾度となく一人で門を潜っては俺との戦闘を繰り返し、俺が死ぬと思ったタイミングで帰っていく。最初はバカにされているのかとも思ったけど、戦闘中の彼女はとても楽しそうだから違うと思った。俺も殺されることなく全力でやり合える彼女との闘いはとても楽しかった。

 

 そんな楽しい時間が半年ほど続いたが、ここ一月ほど彼女が来ていない。彼女の身に何か起こったのかと心配になったが、俺の毒も効かないし、彼女を害せる奴なんているのだろうか? もしかして飽きられた? それはそれで悲しいな……。

 この一月の間に来たのは、ギャーギャー五月蝿い50人程の男の集団。モチロン37564デスヨ?

 そして、その次に来たのは同じく50人程の女の人の集団。あの娘との闘いで俺の戦闘力も上がったのか手加減するのが大変だった。直接攻撃したら死んじゃうから近接職には武器破壊を、魔法や遠距離攻撃は全て弾き返した。そして、武器は失くなり魔力も尽きた彼女達がフラフラしながら帰っていくのを手を振って見送った。すると、みんなから凄い目で睨まれた……何で?

 

 この二つの集団が来た後は静かなものだった。まぁ、門を潜って来てないだけで、門の前にはものすごい数の人がいるんだけどね。何万人居るんだろうか? 人間にエルフに獣人に魔族っぽい人達まで、様々な人種が武装して集まってるんだよね。後ろの魔王城を攻略しに来たのか、はたまた俺の討伐に来たのか……。

 まぁ、門を越えてきたらどっちにしろ俺が戦わないといけないのよね。流石にこの数は厳しいな。全滅させるなら頑張ればいけるかもしれないが、女性にまで犠牲が出てしまう。俺は好きで人間を殺しているわけではないので、無理して全滅させることもない。ここらで年貢の納め時かもしれないな。そう思っていると、後ろから

 

「とうとうやりましたねっ、勇者様っ!」

 

 と言う男の声が聞こえてきた。後ろを振り向くと、数名の人が見えた。エルフに獣人に城門前で集まってる各種族の代表戦力なのかみんな強そうだ。そして、その真ん中にはあの金髪赤目の少女がいた。

 どうやらあの娘は勇者だったらしい。そりゃ強いはずだよね。逆によくあそこまで善戦できたな、俺。そう考えていると、ふと違和感があった。

 あれ? 俺、今動いてるよな? 後ろから来た人間を侵入者と認識した? でも、何かに命令されるような感覚も失くなってるな。何でだ?

 

「これでやっと世界に平和が訪れますね!」

「ええ。これでやっと私は……」

「ちょっと待ってください!」

 

 後ろを向きながら動けることに疑問に思っていると、勇者一行らしき人達の一人と目が合った。

 

「勇者様、『男殺し』のガーゴイルが動いています!」


 えっ? 待って。待って待って待てまてマテ。何その『男殺し』って……。それ、俺のことなの? ちょっと大変凄く嫌なんですけど!? 確かに男ばっかり殺してたけど、人聞き悪すぎる!

 疑問も吹っ飛び俺がパニックを起こしている間にも会話は続いていく。

 

「どうしますか? 我々で奴を破壊しますか? 外に待機している者達もいますし、取り逃がすこともないと思いますが」

「ん~、ちょっと待ってて」

 

 そう言って、勇者ちゃんがこっちに向かってきた。無防備な勇者ちゃんに周りが注意を促しているが彼女はそのまま俺の元にたどり着き、ねぇ、と声をかけてきた。声なんて出せないので、首をかしげることで答えると、

 

「闘って思ったけど、あなた自我があるよね?」

「なっ!?」

 

 仲間が驚いてるようだけど、やっぱり勇者ちゃんはわかっていたらしい。まぁ、半年も闘ってたらそらわかるわな。ということで首を縦に振ると、

 

「じゃあ、私と一緒に来る?」

「勇者様っ! こやつは我々の敵ですよっ! 多くの者たちがコイツに殺されたのは貴方も知っているでしょう!?」

「うん。でもそれって連合国の総意を無視して抜け駆けしようとした国の人とか、名声の為にやって来た冒険者とかでしょう? それに魔王が言ってたけど、この子の支配が不十分で城に来る魔族や連絡用の魔物まで誰彼構わず攻撃するから大量の離反者が出て、もう魔王に従う人がほとんど居なかったって」

 

 ふむ、どうやら俺はお仲間(?)まで一緒に攻撃していたらしい。確かに侵入者の中には魔族っぽい人とか、空から侵入しようとする魔物を撃ち落としたなぁ。その後には大抵ノイズが聴こえてきたけど、あれは魔王が俺に何か言ってきてたのだろうか?

 

「ですがっ……、それ程の被害を出した者を野放しになど出来ません!」

「それなら余計にこの子を抑えられる私と一緒にいた方が良いんじゃない?」

「ですから討伐をと……」

「ねぇ。貴方はまだ人を殺したいと思ってる?」

 

 仲間の言葉を聞き流し、勇者ちゃんがこちらに問いかけてきた。

 ん~。元々殺したくて殺してた訳でもなく、命令無視のせいか暴走しそうになるのを男を殺して抑えてただけだしなぁ。もうそれをする必要もないので首を横に振って答える。

 

「じゃあ、私と一緒に来ない? 外の世界を見て回れるよ? 貴方と一緒なら私の願いが叶えられるかもしれないし……」

 

 最後の言葉の意味は分からないけど、外の世界かぁ。この世界に来てから数十年、ここから動いたことがないからとても興味がある。俺一人で外に出ても追い返されるか、討伐してこようとするだろう。

 彼女の提案はとても魅力的なので頷いて同意を示す。

 

「やった♪ じゃあ、名前決めないとねっ! ガーゴイルだからぁ……。ガッちゃんで良い?」

 

 ふむ、なんか鉄でも何でも食べる子みたいな名前だな。食べようと思えば食べれるし、間違いではないが。

 まぁ、俺は特に名前に拘りなんてないから頷く。

 

「じゃあ、ガッちゃんにけって~い♪ よろしくね!」

「お待ちください! このような魔物を連れていては貴女の名に傷が付きます!」

「別に私は気にしないから問題ないよ」

 

 ずっと勇者ちゃんに食い付いていた神官っぽい男が、勇者ちゃんに軽くあしらわれ俯いて肩を震わせている。神官っぽいし勇者ちゃんを崇拝でもしてるのかな? そして、

 

「くっ……、このガーゴイル風情がぁぁぁぁぁ!!」

 

 と、叫びながら俺に向かって魔法を撃ってきた。勇者ちゃんが大剣を抜こうとしたので、肩に手を置き自分で対処する意思を伝える。

 そして、右手を突き出し魔法を受け止める。チクッと蚊に刺されたような痛みが走ったが気にせず魔法を握り潰した。直後、こちらに迫っていた神官っぽい男が振り下ろすメイスを右腕で受け止め足払いをかける。倒れた男の腹に足を置き身動きを封じる。押さえ付けている足に攻撃を仕掛けてくるけど痛くも痒くもないな。

 このまま踏み潰すことも出来るけど、さっき殺さないって約束したのを即破るのもどうかと思うし、大人しくしてくれないかな。

 

「アナタじゃこの子に敵うわけないじゃない。本気出したら魔王より強いんじゃない?」

「ぐっ……」

 

 え? そうなの? いつの間にか魔王を超えていたらしい。いや、会ったこともないから強さとか知らないけど。戦った本人が言うのだから間違いないんだろう。まぁ、どれだけ強くてももう戦うようなこと無いかもだけど。勇者ちゃんが世界征服するとか言い出さない限りは。

 ……しないよね?

 

 そんなバカなことを考えている間に、男は大人しくなっていた。すんごく悔しそうな顔してるけど。

 そこに勇者ちゃんから追撃が入る。

 

「魔王討伐で私の使命は終わったから、もうアナタとは無関係だわ。だから、アナタに指図される筋合いはないわ」

「そんな……。貴女には北方に出来る新たな国の王になって頂きたいのです!」

「は? 嫌よ。私の使命は魔王討伐だけ。それが終わった今、私はもう自由だわ」

 

 絶望した表情の憐れな神官クン。そんな彼を無視して彼女は他の仲間に向かって、

 

「そういうことだから、みんな元気でね」

 

 と言い、仲間達も彼女の性格をよく知っているのか苦笑しながら挨拶を交わす。

 そして、俺の肩に手を置き。


「じゃあね」

「お待ちくだ……」

 

 神官クンがまだ何か言おうとしていたけど、勇者ちゃんは俺と共に転移したらしい。鬱蒼とした森の中、周りには俺と勇者ちゃんしかいない。……ここどこ?

 

「は~、スッキリした! アイツいつも五月蝿いからキライなのよね」

 

 あぁ……、うん。言葉の端々からよく伝わって来たよ。

 

「さて、ガッちゃん。これからどうしようか? やりたいことがあるんだけど、何をどうしたら良いか分からないのよねぇ。 ガッちゃんはどこか行きたいところある?」

 

 ふむ。行きたいところと言われても城門から動いたことがないから、何があるかもわからないしな。

 この世界の街とかも見てみたいけど、伝えようが無いんですけど……。

 

 そして、何かないかと辺りを見回すとあるものが目に入り、そこを指差した。

 

「ん? あれは……、神殿? ボロボロだけど。

 どうしたの? 門番の次は神殿の番人になりたいの?」

 

 違います。俺がこの世界に来たのが神様のせいなのか偶然なのかは知らないけど、とりあえず神様にお礼でも言おうかなと。人を殺めるだけで終わると思っていた人生? 魔物生? だったけど、彼女と一緒ならこれから先はとても楽しそうだから感謝しないとね。

 

「神殿かぁ。確かに神様に関係するところなら何かヒントが得られるかも。じゃあ、行ってみよっか」

 

 そう言って彼女は楽しそうに歩きだす。俺も宙に浮き彼女の横に並ぶ。彼女が何を望んでいるのかは知らないけど、何をするにしても楽しいはずだ。散々人を殺めてきたし、血生臭いことじゃなければより良いんだけど……

 

「さぁ、待ってなさいよぉ……。ふふふふふ」

 

 ブツブツと呟く彼女の顔はとても悪い顔をしていた。え? ホントに世界征服とかしないよね?

……しないよね?

 

~Fin~

 

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