最終話 祐一へ

「どうだ、良い写真ありそうか?」

「いい感じだと思う。これなら、広報活動に役立つんじゃないか」


 文化祭から一週間後、私は祐一と2人きりで写真の整理をしていた。


「それにしてもXが雲隠だったとは今でも信じられないな」

「ああ、私も最初聞いたときは驚いた。まさか、ずっと悟られず隠し通せてたんだからな」

「でもまあ、幸せそうで何よりだ」


 司は私が美晴と別れた後しっかり告白をしたらしく、正式に交際をすることになったらしい。


 それで、遅くなったものの約束していたデートも先日無事に済ましたと連絡が来た。


「そういえば、噂になってるらしいぜ、木の下の伝説って」

「なんだそのダサい名前は」

「後夜祭に参加しなかった奴らがな、ちょうど嵐吹公園にいたらしく、美晴が司にキスをしているのを目撃したらしいんだ」

「それは大丈夫なのか?」


 人にキスしてるところを見られるってだいぶ恥ずかしいことだろう。私だったら学校に来れない。


「大丈夫らしいぞ、花火の光で影が出来て、顔までは見えていなかったらしいからな」

「それなら一安心だな」

「だが、噂っていうのは恐ろしいもんだぞ。人から人へと伝わる中で尾ひれはひれがつくもんだからな。数年後には伝説として語られているかもしれないな」

「そんなことがあってたまるか」


 自分たちの告白が伝説になったとしたら恥ずかしくてたまらないだろう。美晴たちのためにも早く鎮静化してくれればいいんだが。


「それで、千里は大丈夫そうか?」

「ああ、元気そうにやってるよ」


 文化祭の翌日、心配だった私は千里の家に訪れた。立ち直ったかのように明るく出迎えてくれた。元気そうに振る舞ってはいるものの、どこか無理しているのは分かった。


 こればかりは時間に解決してもらうしかない。私たちは余計なことはせず、ただ見守るだけだ。


 司たちも堂々といちゃいちゃすることはなく、学校や部室では今まで通りの距離感で付き合ってくれているので刺激は少ない。変わったところがあるとすれば、美晴が司に敬語を使わなくなったぐらいだからな。


 交際をしたからといって付き合いが悪くなるといったこともなく、四人での集まりはしっかり来てくれている。


「そういえばさ、紗絵香は平気なのか?」

「何が?」

「何がって、紗絵香も司のこと好きだったんじゃないのか?」

「はぁ~」


 私はため息をついた。こいつは何を言っているんだろうか。鈍感にも程があるだろ。


「お前、ラブコメは絶対書けないな」

「何でだよ」

「司は幼馴染としては好きだけど恋愛感情を抱いたことはないぞ」

「そうなのか」


 幼馴染の好意も分からないんだから祐一には恋愛小説は書けないだろうな。


「じゃあさ、もし好きなやつが出来たら教えろよ。協力してやるからさ」

「ありがとな。でも、お前だけには頼ることはないから安心しろ」

「何でだよ」


 私には好きなやつがいる。いつ告白するのかもすでに決めている。


 私はそいつに一度もテストで勝てたことがない。私はお何時に勝てた時、告白するつもりだ。


「祐一、覚悟しとけよ」


 祐一は私の突然のつぶやきが理解できないようで首をかしげる。

 

 私の好きなやつは、星川祐一、お前だよ。


 いつかテストで勝って告白してやるから覚悟しとけよ。


                                     完

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記憶にない恋文 ~自室から見つかった数年前の恋文、その子のことを僕は覚えていない 宮鳥雨 @miyatoriame

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