地獄に堕ちた

@Tobisco-pu

第1話地獄に堕ちた

目が覚めるとそこは地獄だった


地獄と言っても比喩的なものでは無い

勇ましい鬼、大きな釜、棘山、顔色の悪い人間などの所謂地獄と言われて思いつくようなそんな地獄だった

しかし私は地獄に行くような悪行をした覚えはない、寧ろ死んだ覚えもない

そして身体に違和感を覚えるまで私は思考を続けた


首に荒縄が巻かれているではないか!

きっとなるべくして他者に殺されたのだろう

そのなるべくしてが私には思い出せない

ふと荒縄を見ると、荒縄は地獄の果てのない上方に向かって垂れていた

私はその時煌めきを得た、この荒縄を伝って登れば地獄から出られるのではないかと

私は荒縄に手をかけ踏ん張った、荒縄の表面によって手は痛みはしたが問題ないものであった

さあ登ろう

私は登っているさなかある男の記憶が脳裏に流れ込んできた



その男は家庭を持っていた

妻と娘と息子、街から少し離れた村で平穏に暮らしていた

男の仕事はある機械を作る仕事をしていた

その機械とは人間を殺すための、いわば戦争用の殺戮兵器だった

人工知能によって敵兵を探知しその場に適した武器を使い多くの敵を殺すためにシステムされたものだった

隣国との戦争が激化しているさなか男の開発した機械は自国を有利にするものであった

故に国の偉い人は男に褒美を取らせた

男は褒美と言われても何も思いつかないので保留にした

男は自分の開発で敵国であっても人を殺してることに大きな抵抗があった


そんな時に男の心の支えになったのは家族であった、街の離れにあるせいで週末にしか会うことが出来ないがおとこは家族を1番の大切なものとしていた

ある日街で開発に明け暮れていた男はある一報を受けた

それは街の近隣の複数の村が敵国に占領され始めているという報告であった

男はヒヤリとしたもしや家族のいる村が占領されたのではないかと

その悪い予感は見事に的中してしまっていた

敵国は村の民を人質に取り、自国を攻める機会を伺っていた

街の周り数個の村が占領されてしまったことで焦った国の人間は例の兵器を各村に向かわせた

順調に近い村から少しずつ敵兵を殲滅し始めた兵器はようやく男の家族のいる村に向かい始めた

男は安心をしたがそれは敵の次の声明によってかき消された

それは 兵器をこの村に近づく度に村の民を殺す というものだった

男は焦って兵器を止めようとしたが既に遅く村に兵器が到着してしまっていた

男は急いで村へ向かった


もちろん声明道理に敵兵は村の民を殺してまわり民は1人も残っていない

兵器に追いついた男はその現状を知り深く激怒した

よくも私の家族を、よくも私の安寧を

男は機械に命令した

何人死んでも問題ない奴らは外道だ、と

男は兵器の最大出力の攻撃を村に放った

それは村の建物をほぼ崩壊させ敵兵を1人残らず殺害した

瓦礫の山が積み重なる村の跡地には半壊した教会が残っており男はそこに立ち寄った

男が祈りを捧げているさなかうめき声が聞こえた

もしや敵兵の生き残り、と思った男は教会の一部分だったであろう鈍器をもってはうめき声のする方へゆっくりと近ずいた

どうやら瓦礫の下に敵兵がいるらしい

男は鈍器を振りかぶり瓦礫を強く叩きつけた

ヴッ、と蛙の潰れたような声

瓦礫の隙間から黒くにごった血が流れてくる

男はやってやったぞと言わんばかりに微笑んた

自分の手柄を確認するため瓦礫を退けて死んだ奴の顔でも拝んでやろうと思った

その選択が間違えだったのだ

男は絶望した

男が敵兵だと思っていた人は母親によって教会に逃げ隠れてきた自分の息子だったのである

せっかく生きていた大切な家族を自らの手で殺めてしまったそれだけで十分な理由だった

男は鮮血で手を真っ赤に染っていたが洗うことなく街に戻った

男は件の褒美として丈夫な荒縄を貰い村の協会の大きな十字架に荒縄を括りつけ首を吊った


私の手は荒縄によって傷つき血が垂れ始めた

私は、いいえ男は全て思い出した

男はもう登ることなどどうでも良くなっていた

ふっと手を離す男

愛する家族までも殺した男には地獄がふさわしいとそう思えた

登った分だけ落ちていく男

ついに最大に伸びた荒縄がピンと張り男の首がぐっと引っ張られる、しかし荒縄の握った痛みほどしか痛みを感じない

男は不思議に思っていると1匹の小鬼が近ずいてこういった

「君は死んで天国に行った、天国は自分の望んだものをなんでも創ることが出来る最高の場所なのに、どうして自ら地獄を創ったの?君は戦争の最大の功労者なのにさ」

男は気づきを得て微笑んで言った

「私がそれに値しない人間なだけさ」

                                         終



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