第00話 閉店

 びっしり埋まっていた予約を全てさばいたため、営業時間はゆうに超えており、3人のお腹は活発に音を鳴らしている。

「さすがにもう、今からご飯を作る気にはならないよ……」

 ノアは掃除用の箒にだらんと無気力にもたれかかる。

「でしたらもう、できています」

 零は指を鳴らすと、桔梗が颯爽と現れた。

「お待たせいたしました。かつ丼です」

「かっ、かつ丼⁉ マシュー、さっさと掃除を終わらせるぞ!」

「了解!」

 それからの2人のスピードはすさまじかった。かつ丼の力はすごいな、と零はじみじみ思う。


「なんで梅さんもいるんですか……?」

「私もかつ丼が食べたかったからだ」

 桔梗と夢は揃って夢中でかつ丼を口に放り込んでいる。てか式神もご飯食べれるのかよ、とノアは全力で引いている様子だ。

「零さん、そういえば図鑑と兄ちゃんの箒買ってくれるっていったよね」

 マシューが尋ねると、零は斜め上を見上げた。

「僕は単語を並べただけで、買うとは言っていないけど」

「はあ⁉ そんなのあり⁉」

 ノアは頭を抱えて唸っている。

「嘘だよ」

「どっちなんだよ!」

「2人には日頃からお世話になってるからね。好きなのを買ってあげるよ」

 それを聞くと兄弟はハイタッチをして喜んだ。

「おい! かつ丼の味が乱れる!」

五月蠅うるさいですよ梅さん」

 興奮気味なノアとマシューとは正反対に、桔梗と梅はぎすぎすしているようだ。「はしたない……」と桔梗は不機嫌そうだ。

(渚さん、ハンナ。僕は前よりずっと生きるのが楽しいよ)

 零は心の中の2人に呟く。

 ずっと見ていてね。約束だ。


 その夜、森全体に雨が降った。それは風が強く吹き荒れるような雨ではなく、雷が鳴る雨でもなく、ただ空から落ちてくる、優しい雨である。



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零の約束 神宮司マヒロ @Matcha66

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