第2話
簡単な作戦になるはずだった。少なくとも情報部はそう考え、各級指揮官たちもおおむねそう判断した。たった一人の“敵”を拉致し、それが叶わないのであれば殺せばいいのだ。生き死には問わない、こんなに楽なことはない。情報部の情報と士官学校出身の上官たちを信用しない現場は違った。最初から拉致を排除し、殺害ひとつに目的を絞った。少しでも生存性をあげるためだ。たとえ命乞いをされても殺してしまえ。死人に口はないのだし、なにより命は一つだけなのだ。しかし結果は待ち伏せだった。拉致もしくは殺害対象が潜伏するとされた家屋は分隊が突入すると同時に爆発炎上し、周囲から猛烈な制圧射撃をうけている。何とか作戦指令部と連絡をつけた第11小隊は、兵力のほとんどを失いながら後退を続け、「緊急時」の隊の回収を要請した。
上空に待機していたドローン群の遅ればせながらの援護を受けることができた第11小隊の残余は敵に抑えられている当初の撤退ルートを放棄し、北方の林に退避することができた。すぐに全集防御の態勢をとる。ウーリが小隊長に告げる。
「小隊長、ウミネコが来ます。40分後、さらに北12時の方角、4キロの地点です」
ババイエフは頷き、ウーリに目を向ける。
「被弾したのか?」
ウーリが生真面目に答える。
「左肩に1発食らいました。問題ありません」
「すぐに止血しろ。アクラム、ウーリを手伝ってやれ。他に負傷者は?」
ババイエフは腕時計を見つつ足早に言い、状況を確認する。最悪だ、情報は罠だった。情報部ははめられたのだ。いや、はめられたのは俺たちか。くそったれめ!このクソ情報をつかんできた奴を殺してやる。いや、今は生き残ることが先だ。残った部下たちを全員連れ帰る(4人にまで減っている!)。幸い、この4人に重傷者はいない。ウーリは大丈夫だ。ドローンの操作技術に精通した特技兵も生き残っている。彼らを連れ帰るために全力を尽くすべきだ。ここから4キロの地点にティルトローター機が40分後なら…。大丈夫だ。間に合う。
夢遊病者たち 吉田さつき @fahrenheit524
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