伝説の疫病対策
結騎 了
#365日ショートショート 047
空気が振動した。小型の爆弾が作動した音である。どうしても入口が見つからなかった遺跡を探検するべく、調査隊は最後の手段に出た。
やがて耳鳴りが収まり、恐る恐る中に入る。今、足で踏んだものが、もしかしたらものすごく価値のあるものかもしれない。そんな緊張感が隊員一同を包んだ。
「やっとここまできましたね、隊長」
副隊長は、マスクの下でにやついている。興奮を抑えきれないようだ。
「ああ、我々の研究が報われる日がきたのだ。世界はこれまでにない疫病に悩まされている。文明が発達したのにも関わらず、我々には有効な手段がない。常に後手に回り、経済も文化も、痛手を負うばかり」
「しかし、この遺跡には……」
「ああ。突破口があるかもしれない。丸二年かけて世界中の記録をあたったところ、なんとこの遺跡に、はるか古代の疫病対策が遺されていることが分かった。それは、予防薬の生成方法か、失われたテクノロジーか。記録によると、ある国家による一大プロジェクトとして、膨大な資金が注ぎ込まれたらしい」
「まさに伝説の疫病対策ですね。しかも記録には、疫病に打ち勝った証としてそれはそれは崇められたと残っていました。ようし、これでやっと、人類は疫病に打ち勝つことができる。世界に希望が灯りますよ」
ふたりの足が、つい速くなる。暗い遺跡の中を、奥へ、奥へ……。
……ごつん。隊長と副隊長は、突然、壁にぶつかってしまった。しかしよく見ると、それは壁ではない。岩肌ではなく厚い紙だ。それも、無数のブロックで構成されている。
「なんだこれは……。もしや、段ボールか。まさかそんな。この時代に……」
慌てて、そのひとつを抜き取り開封する。よほど厳重に保管されており、中々開けることができない。カビついたテープがひどいことになっている。
「えいっ」
隊長は力任せに箱を開けた。白。中には、白い布が敷き詰められていた。取り出してみると、それは大量の布製マスク。しかも、成人男性の顔の大きさからすると、頼りないサイズであった。
伝説の疫病対策 結騎 了 @slinky_dog_s11
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