第53話 キレイな正三角形  ( 最終話 )

 那知がいなくなって、3日目の朝。

 母から、那知の出自について聞かされ、慌てて、那知を探そうとしていた澪。


 那知の居場所を知っていそうな人物といえば、土田しか思いつかなかった。


 前日の【クモノスケ】のツイートには、幻日が載っていて、その小さな円形の虹色の美しさのイメージからは、土田の中に不安要素を全く感じ取れなかった澪。


(高校は冬休みだから良かったものの、那知、バイトはどうしてるのかな? もしかして、土田君なら、戻らなかった那知について知ってるかも?)


 土田とは、まだアドレス交換をしていなかったから、Twitterに【mokk】でログインし、メッセージを【クモノスケ】に送った。


『3日前のあの夜以来、那知が家に戻らないけど、バイトは行ってる?』


 メールやラインと違い、TwitterのDM上での土田の反応は遅いかも知れない。

 それ以外の土田との連絡手段が無い澪は、土田が早くTwitterを開き、自分からのメッセージに気付いてくれる事を祈った。

 土田は、たまたまスマホかPCを見ていたようで、思いの外早く、【クモノスケ】からの返信が届いた。


『園内、昨日はラストまでバイトしていたよ。今日これから、僕も園内も早番のシフトだから、心配だろうし、澪ちゃんも一緒に来る?』


 (良かった~! 土田君って、やっぱりいざという時に頼れる~! 那知、バイトは休んでなかったんだ......)


 家を飛び出したものの、那知が普通にバイトしていると知り、ホッとした澪。


 DMでやり取りした後、土田達が働いているファミレスからは5分ほどの位置に有るスーパーで、待ち合わせする事になった2人。

 土田も澪も待ち合わせ時間の5分前には、スーパーの入り口付近に着いていた。


「早かったね、澪ちゃん!」

 

「土田君も、5分前厳守の人なんだね~!」


 似た者同士という事で、笑い合った澪と土田。

 その2人の頭上には、大きい飛行船のような楕円のレンズ雲が浮かんでいた。

 目を凝らして見ると、そのレンズ雲の一部は虹色に彩られた美しい彩雲になっていた。


「澪ちゃん、ほら! 彩雲が出てる! これは、吉兆だな~!」


 言うが早いか、慣れた様子でスマホを出して撮影し、すぐに【クモノスケ】でツイートした土田。


「本当だ~! キレイ~!」


「あっ、澪ちゃん、これ僕の電話番号とメアド」


 達筆な字で書いたメモ紙を澪に手渡した土田。

 赤外線通信で情報を得られるより、土田の直筆で貰えた事が嬉しかった澪。


「ありがとう! 私のは、今度メールするね!」


「3日前から、園内は家出って......」


 自分の言動が原因なのだと責任を感じさせられ、口籠った土田。


「違うの! 土田君のせいではないの! 私が悪かっただけ......あの日......あの後、那知にキスされて、バカとか大っ嫌いって、つい言ってしまって......」


 土田を前にして、那知が家を出た経緯を伝えるのは無神経に感じられたが、土田が先日の件で自責の念に駆られないよう弁明しておきたかった澪。


「そうか......園内が好きなのは、澪ちゃんだったのか......! それで、あの時......でも、園内は近親だから、その気持ちを隠しておきたかったんだな......」


 以前、那知に好きな人を尋ねた時、断固として口を割ろうとしなかったのを思い出した土田。


「それが......私は、今まで知らなかったけど、那知は本当の弟ではなかったの! でも、那知は2年前から、その事を知っていて......」


 澪の言葉に、驚愕し言葉を失った土田。

 ファミレスの裏口から2人が入ると、既に那知がモップを持ち、1人で店内の掃除をしていた。

 那知の近くには、流れで一緒に来ていた美依もいたが、澪の視界には那知しか入ってなかった。


「那知!」


 那知の姿を確認するや否や、駆け寄って抱き締めた澪。

 血縁が無い事を直前に聞いていた土田も驚いたが、それよりも愕然としているのは美依だった。


「澪.....」


 予期せぬ澪の登場と行動に、動揺し身体が硬直した那知。


「ゴメンね、那知! お母さんから、聞いた! 血が繋がっていても、繋がっていなくても、私のワガママかも知れないけど、那知には、いつだって私の隣にいて欲しいの! お願いだから、家に戻って来て!」


 モップを持ったまま固まっていた那知が、やっと顔にも綻び《ほころび》を見せた。


「うん......」


 自分が何度となく説得を試みても、決して頷かなかった那知が、澪の言葉で糸も容易たやすく方向性を変えた事に、目と耳を疑った美依。


「良かったな、園内、両想いで! さてと、お邪魔者は消えますか......」


 那知への自分の気持ちにケジメをつける覚悟で、土田が退散しようとした時、澪と那知が同時に笑い出した。


「あれっ、僕、何かおかしい事を言っていたか?」


「笑って、ゴメンね! でも、土田君、行かないで」


 2人の反応に困惑する土田。


「ツッチー、もっと人の気持ち汲み取れるようになれよ!」


 那知が澪の身体を離し、土田の方に誘導した。


「私達って、何だかまるで、キレイな正三角形みたい! 結局、全然気付いてもらえてなかったようだけど、私2年前に初めて土田君に逢った時からずっと、土田君が好きだから!」


 初めて本人の前で、素直な気持ちを伝えた澪。

 傍らでハラハラしながら成り行きを見ていたが、澪の気持ちを知り、安堵した美依。


「えっ、澪ちゃんが、僕を! ごめん、ずっと気付けなくて......」


 驚きを隠せない土田。


「そんな謝らなくてもいいのに......だって、私、そういう土田君だから、好きなの!」


 この正三角形をキレイな形状で維持する関係を続けようとするのは、もちろん、過酷な時も有るかも知れない。

 だが、那知も土田も同じくらい大切な存在だから、このキレイな正三角形がいつまでも歪まないよう願わずにいられない澪。


「買い出し頼まれてたの忘れてた! 美依、付き合って」


 那知はエコバッグを持参し、成り行き上、しばらく呆気に取られていた美依を連れて外に出た。


「僕も行くよ、力仕事は得意だから!」


「あっ、買い物は私の方が! 少しは鮮度とか分かる! .......あれっ、井上さん、どうしているの......?」


 慌てて、那知に続いた土田と澪だったが、ふと、那知の隣で当然のように寄り添っている美依に気付いた。


「何よ、さっきからいたわよ!」


 澪に対して、露骨に敵対心むき出しの態度になる美依。


「2晩、美依の家でお世話になっていたんだ!」


「「え~っ!!」」


 那知の言葉に、澪と土田が同時に驚いた。


「あの、私のせいで、迷惑かけてごめんなさい......」


 澪が詫びたくて会釈し、顔を上げた瞬間、美依の容赦無い強さの平手打ちが澪の左頬を直撃した。


「いたたた......」


 予期せぬ襲撃に、叩かれた頬を左手で押さえ、美依を戸惑いながら見つめた澪。


「美依! 何してるんだ!」


 美依に憤り、戒めようとした那知。


「私、この人、大っキライ!! でも、那知を思い止まらせてくれた事だけは、お礼を言うわ! ありがとう!!」


 美依の態度が、お礼を言っているようには思えなかった澪。


「あっ、はい......?」


 なぜ平手打ちされた後に、お礼を言われたのか、状況を呑み込めないままの澪だったが、美依にそっぽを向かれ、それ以上は追究しなかった。



 青空に浮かぶレンズ雲は、先刻とは形状を変えたものの、尚も虹色の彩雲のまま4人を見下ろしていた。


 そう、彼らの青春はまだ始まったばかり。


 澪と土田が正三角形と思い込んでいた形状に、いつの間にか、1箇所だけもつれるように細い辺が加わっていた。


 それでも主なる線はキレイに均衡を保ち正三角形のまま結び付いている。


 それぞれが大人になって、自分に最適な状態を選択するその時まで、この正三角形を少しでも長く維持出来るよう、3人は確認せずとも、それぞれの胸の中で誓っていた。


 1対1というカップルが圧倒的に多い世の中で、この奇異なるトライアングルな関係性を。



               【 完 】



 元々は別の小説サイトで6万字で投稿したものを、ラスト部分を大幅に付け加え、10万字余りの長編に書き直しました。


 特に後半は、少し違和感が有ったかも知れないですが、最後まで読んで頂いてありがとうございますm(__)m


 今後は、少し違うジャンル作品 ( ゆるいSFラブコメ予定 ) を挟んだ後、続編を考えてますので、もしよろしかったら、そちらも訪問して頂けると励みになります♪

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