第52話 引き留めたくて......( 次回、最終話 )

「状況把握に苦しむんだけど......僕の寝場所は、ベッドって事?」


 真川との話が終わり、入浴を済ませてから部屋に戻ると、昨日は那知が使っていたソファーベッドに美依が寝ていた。


「違う~! 那知もここで寝るの!  伯父様はあんな事を言っていたけど、やっぱり、私は納得出来ないっ! 札幌行くの止めて!」


 真川の前では、素直に話を聞き入れていた美依だったが、那知がここからいなくなる事に、賛同は出来なかった。


「もう、僕の居場所はここには無いから。それなら、いっそ新天地行って、生まれ変わった気持ちで、やり直した方がいいじゃん」


「居場所は、ここじゃダメなの? 私は、那知が必要だから! ずっとここにいてよ、那知! そうだ、既成事実作るっていうのはどう?」


 何とか那知を引き留めようと、頬を染めながら提案してくる美依。


「既成事実って......? どう考えても、却下だろ!」


 いきなり大胆な提案をした美依に呆れる那知。


「だったら、プラトニックでも何でもいいから、ここにいて! 私は那知がいてくれたら、いいの!」


「もう決めたんだ! 口出ししないでくれよ!」


 説得しようとする美依に、全く応じようとしない那知。


「ヒドイよ~、那知! こんなに私が頼んでいるのに~!」


「もうその話は終わりにしないか。美依、僕は眠いから、ベッドに戻ってくれ!」


 頑なに首を振り、そこから退こうとしない美依。


「イヤっ! キスしてくれないと戻らない!」


 キスという言葉で、再び、土田からの予期せぬキスと、澪への衝動的なキスを拒絶された苦い後味が脳裏に蘇った。


(同じ女子でも、こんなにキスに対する反応が違うなんて、皮肉過ぎる。澪が美依のように少しでも接してくれていたら、ここを離れようなんて思わなかったかも知れないのに......)


「仕方ないな......」


 那知は、瞳を閉じて待つ美依の額に、ごく形式的なキスをした。


「オデコ......? まあ、いいわ!」


 期待通りにはいかなかったものの、那知の唇が触れた感触に満足し、赤面しながら引き下がろうとした美依。


「美依、ありがとう」


「そう思っているなら、唇にキスしてくれたらいいのに!」


 一度、自分のベッドに戻りかけた美依がソファーベッドに引き返そうとしたが、那知は手で払った。


「それは、なんか違う......けど、ここに来たのがきっかけで、本当の自分探しが簡潔に出来たし、助かった」


「いいの、親戚って分かったんだし! 私達はこれが最後じゃなくて、これからも、よろしくになるんだけど、そこんとこ分かっている、那知?」


「親戚付き合いって、よく分からないけど、まあよろしく」


 那知の言葉に満足げな美依は、そのまま寝るかと思われたが......


 消灯し、那知が静かになったのを確認し、また再び、那知のソファーベッドに侵入しようと企んだ。

 美依としては、明日には去るかも知れない那知との最後の夜の覚悟で、せめてもう少し接近したい気持ちが強まっていた。


(昨日も思ったけど、那知って、寝るの早い! この部屋に二人っきりなんて状況だから、私はドキドキして、なかなか寝付けないのに。那知は、私に対して、そういう気持ちが、全然湧いて来ないの?)


 美依は、那知の寝ているソファーベッドの左端から侵入した。

 熟睡している那知には、気付かれている様子は無かった。


(ふふっ、一緒の布団に入っちゃった~! 気付かれないように、少しずつ接近していこう......)


 仰向けに寝ている那知と肩が触れ合う位置まで近付いた美依。


(那知が爆睡していて良かった~! 全然気付かれてない! さっきは、オデコのキスだったけど、こんなチャンスそうそう無いんだから! 寝ている那知の唇を奪っちゃえ!)


 行動に移そうとした瞬間、左向きに寝返りを打った那知の腕に抱き締められた美依。


(ウソ~っ! ラッキー過ぎる! 寝ている那知の方から抱き締められるなんて! 起きている那知は抱き締めてくれないもんね......)


「みお......」


(えっ......? 寝言のせいか滑舌悪くて、聴き取れないけど、もしかして、夢の中に私が出て来てるのかな......?)


「みお、すきなんだ......」


(だから~、私は、美依だってば~! もう那知ったら! 夢の中でも、スキって言われたら、嬉しいけど、そんな風に呼ばなくても......って、あれっ、もしかして.......私じゃないの?)


 自分と勘違いし、しばらく那知に抱き締められたまま有頂天になっていた美依だったが、思い違いかも知れない事に気付きハッとした。


(もしかして、みお......って、ボッチの事......? えっ、だって、那知の好きなのは、土田君でしょう? 第一、ボッチは、那知の姉じゃん! たまたまそういう設定の夢を見ていただけ......?)


 疑問が沸々と浮かび上がって来た。


(那知が、今、居場所を無くしているのは、ボッチの家で何かが有ったせいだろうけど......家族関係が悪化して飛び出したのかと思っていた。でも、違っていた? もしかして、ボッチと何か有ったの......?)


 夢の中の澪と思われて、自分が那知に抱き締められている事に耐えられず、寝ている那知の腕を振り払い、ソファーベッドから抜け出した美依。

 自分のベッドに戻った後も、悶々とした気持ちが拭えず、寝付けないまま夜を過ごした。

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