第51話 居場所
(この男は、何を言い出すのだろう......? 今さら父親面して、僕を支配したがっているとか......?)
真川に言われた内容が解せずに、睨み付けた那知。
「僕をどうするつもりですか?」
「知っての通り、俺達夫婦には子供がいない。園内君に、声をかけたのは、自分の血の繋がった跡取りを必要としている事くらい、考えなくても理解出来るだろう?」
小馬鹿にしたように尋ねた真川。
「僕には、家族がいます!」
「いたところで、こうして、女の子の家に夜な夜な泊まりに来るのだから、その家族とやらに対する不満でも募っていたのだろう?」
「それは......」
図星というわけではなかったが、那知は今後、どのタイミングで、どんな顔をして、澪のいるあの家へ戻ると良いのか分からずにいた。
「こんな何も無い田舎に、いつまでも居付いても埒が明かない! どのみち高校出たら札幌に移るつもりだったのだろう? 単に、それが少し早まったと思えばいいだけだ!」
那知の心情も考慮せず、自分の都合上で、早々に話を進めようとしている真川。
「むろん、俺の跡を継ぐのなら、それ相応の進路を選んでくれないと。言うまでも無く分かっていると思うが、交際相手も見極めろ。美依ちゃんが相手なら認めるが、それ以外の、特に格下とは付き合ってもらうのは困るな」
(格下......この人は、自分の意のままに動く操り人形が必要だったのか?)
真川に自分の進路や生き方を口出しされるのは不服だった。
とはいえ、美依の家にいつまでも世話になるわけにもいかず、かといって、今までの生活に戻れる当てもなく途方に暮れる那知。
「今......即答すべきですか?」
「良い返事であれば、是非、すぐに聞かせてもらいたいね」
「伯母さん......いえ、僕の義母になる方は、どう思っているんですか、この事を?」
いつも、ここに来る度に長居するらしい伯母が、早々に引き上げたというのは、少なくとも歓迎ムードでないはず。
「あいつは、へそ曲げて帰ってしまった。今さら、こんな大きくなった
「僕に対する風当たりが強そうですね......」
「慣れれば大丈夫だろ。で、了解という事でいいんだな?」
血が通っているはずの親だが、いつも顔さえ見ると愚痴ばかりをこぼす、あの育ての父親以上に温か味を感じられない那知。
「今までお世話になった家に、その件を伝えて荷物をまとめる時間を下さい。それから、バイト先の人達にも、挨拶をさせて下さい。」
「それくらいは構わないよ! こんな良い土産が手に入ったんだ! ここに足を運んだ甲斐が有ったよ!」
(土産扱いなのか、僕は。澪はどう思うだろう......? 僕がいなくなる事を......)
真川との話がまとまったタイミングで、美依が鼻歌を歌いながらバスルームから戻って来た。
「あらっ、伯父様! こんな所で、どうしたの?」
那知と2人で真川がいる事に、目を見張った美依。
「園内君と大事な話をしていたんだよ」
「大事な話って、何......?」
真川と那知の顔を交互に見て尋ねた美依。
「まあ、身内である美依ちゃんには隠す必要など無いか。実は、園内君は、15年前に生き別れた俺の息子だったんだよ」
那知と話す時とは違う、明らかに柔らかみの有る声のトーンで話した真川。
「え~っ! 那知が、伯父様の息子さんって! それじゃあ、私とは、従弟になるの? いとこ同士って、結婚は......?」
メイクを落としたての奥二重の目を大きく見開いて尋ねた美依。
「大丈夫だよ。いとこ同士は結婚できる。第一、園内君は、美依ちゃんとは血が繋がってもいないから」
血が繋がっていないという言葉で、那知が、伯父と伯母の間に出来た子供ではなかったのだと察した美依。
その時点で、伯母が先に帰った理由が美依にも納得出来た。
「そうなの、良かった~! それにしても、まさか、那知が伯父様の息子さんだったなんて! 昔、伯父様から生き別れた子供がいるという話を聞いた時は、ただの作り話だと思っていたけど、本当だったのね!」
美依の言葉で、真川が以前から、自分には子供がいる事実を認識していたのを知らされた那知。
が、その言葉だけでは、真川が、まだ積極的に探そうとするタイミングではなかったのか、探す当ても無く途方にくれていたところに、たまたま那知が現れたのか分からなかった。
「やっと園内君が見つかったおかげで、俺は、美依ちゃんから嘘つき扱いされずに済んだな!」
「そんな~、私、伯父様を嘘つきだなんて思った事ないわ~! それで、那知は、これから、どうするの?」
「札幌に行く事にした」
大した事でも無さそうにサラッと言った那知の言葉に戸惑った美依。
「えっ! 札幌って、そんな急に! 私も、高校出たら、大学は札幌にする予定だから、それまで待てないの? 那知の家族だって、バイトの人達だって、きっとそんなの困るよ~!」
那知が、ここから去るというのが受け入れられない美依。
「バイト先は、今は冬休みで、人手がわりと余っている時だから、大丈夫だよ。家族も、多分、僕が望んでいるなら認めてくれる」
「でも、土田君は、どうなるの? 絶対、そんなの良くないよ~!」
美依からすると、ライバル的な立ち位置の土田だったが、今の那知を引き留められるなら、その名前を出す価値は有ると思った。
「ツッチーの事も、やっぱり距離置いた方が良さそうだなって思うんだ......」
「そんな~! イヤよ~! 伯父様も何とか言って!」
「美依ちゃん、こればっかりは、本人が望んでいるんだから、そうさせてあげるのが、思いやりのある恋人というものだよ。俺は、美依ちゃんと園内君の交際には賛成しているからね。今までのように、また度々、これからは親子3人で訪問する事になるだろうし」
その真川の言葉に、那知との繋がりは保てると、少しは安堵した美依。
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