第3話 長屋子供相談室 その2


子育て親育て


 ちょいと、お妙さんじゃないかい。 どうしたんだい?

そんなに血相欠いて、何を慌てているんだい?

えっ? お菊ちゃんが家を飛び出して行って、半時経っても帰ってこないのかい。

そりゃ心配だね。 だけど、お菊ちゃんだって、小さな子供じゃないんだ。

そろそろ帰って来るだろうよ。

慌てたって仕様がないから、とりあえず上がってお茶でも飲んで、それから心当たりを、さがしゃぁいいじゃないか。

うちのもんも、手伝いに出すからさ。

それで、お菊ちゃんはどうして飛び出したんだい?

なに、なに、算術が出来なくて、練習させても直ぐ遊んじまって、絵ばっかり描いてるから、頭に来て、ふんふん、きつくしかっちまったのかい?

それで 「おっかさんはあたいの事が嫌いなんだ!アレもだめ、これはいけない、

間違ってるって、あたいだって、一生懸命やってるんだ。だのに失敗ばっかり見て、ちっとも褒めちゃくれない」って、お菊ちゃんそう言ったのかい?

そうだね。親だから子供の一つ一つが気になって仕方ないのは、分かるけど

子供からしたら、親に褒めてもらいたいやね。

100点満点で10点だったら、とれなかった90点を責めたくなるけど、

取れた10点を褒めてやらなくちゃいけないんだろうね。

あ、そうだ! 海の向こうのメリケンに偉い発明家がいて、その人が言うには

「私は失敗したことがない。これまでうまくいかない1万通りのやり方を見つけただけだ」

とそう言ったそうだよ。 間違いを見つけるのは、一回で上手くいくより

よっぽど意味があるって、言いたいんじゃないかね。


 人には、失敗する権利ってのがあって、誰でも挑戦して、失敗や間違いを繰り返す

権利があるってわけさ。

お妙ちゃん、あんただって巳之吉さんと夫婦めおとになって1年もたたないうちに失敗した、間違ったって愚痴をいってなかったかい? それが、どうだい、今じゃ立派な大店おおだなの旦那になって、店を見事に切り盛りしてるじゃないか。 

お菊ちゃんは、素直ではっきりした物言いが出来る、良い娘に育ったよ。

ありゃ、失敗作だっていうのかい? はははは、うんうん、そうだろ。 可愛くて可愛くて仕様がないんだろう。自慢の娘じゃないか。じゃ、本人にそういってやんなよ。


 ちょいと、お菊ちゃん、出ておいで。おっかさんもこう言ってるんだから

もう、許してやっちゃ、どうだい? 

ふふふ、バカだね、親子で抱き合って泣くほどのことでもあるまいに。

ささ、日本橋名物、小布施堂(こふせどう)の羊羹を持たせてあげるから、

これを買いに行ったといって、うちにお帰りよ。 おとっちゃんも心配してるだろうからね。


 子育ては、親育てって言うけど、本当だね。


  さぁて、こーしちゃいられない。ぼんくら亭主の失敗の後始末でも、してこようかね。



*音声化したものを、spoonアプリのキャストに、上げております。加筆、修正等がありますのので、ご了承ください。


https://www.spooncast.net/jp/cast/3753796

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現代落語風味 欠け月 @tajio10adonis

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