第2話 長屋子供相談室 その1

え?お母さんもお父さんも、僕を子ども扱いして、あれもダメこれもダメだって言って、何もやらせてくれない?

僕は自分で考えられるし、そんじょそこらの大人よりよっぽど大人だって?


 だからね、さっきから言ってるようにあんたのお母さんが口煩いのは仕方がないのよ、人間は年をとるってぇと、どんどんいろんなものが分かってきちゃってね、

分からなくっていいことまで、分かるようになっちゃうの。



 え、なんだって。僕たちには、素直になれとか、嘘つきは泥棒の始まりだとか言うくせに自分達だってひねくれてて、嘘つきじゃないかって。


 おまえさん、いうに事欠いて、良いとこ突いてくるね。こりゃまた、おどろいたね。


 いいかい、りっぱな大人になると嘘も上手になって、ばれない嘘がつけるようになる。こうなるってぇと一人前。お前さんに分かるような嘘をついてるのは、まだまだ半人前の大人なんだよ。


 バレない嘘をついて、世の中を上手に渡っていく、その為に学校に行って、つまらない勉強をしていろんな訓練を受けてるでしょ?


 あんたたち子供は、成績が悪くなると、一生懸命勉強します。宿題をちゃんとやります、なんて言うけどちっとも宿題も、勉強にも身が入らないで、ゲームばっかりやってて、また、叱られる羽目になる。

そういう、浅はかな嘘がいけない。嘘をつくなら、ちゃんとしっかりした、信頼できる噓をつかなきゃいけないよ。


 聞いたよ、あんたお母さんに、ババアって言ったんだって?

そりゃね、ははだって、シミとしわを付けて、濁ってきたらたしかに、ばばになるよ、あんたの言ってるのは、決して間違いじゃない。だけど、そこが子供のあさはかみつけ。

そこで知恵が回るか回らないか、バカと阿呆の境目なんだよ。 え?バカと阿呆は同じだろうって?

何を言ってるんだい、バカは馬と鹿だけど、阿呆は鳥だろ、全然違うよ。

いや、そんなのはどうでもいいの。


 お母さんをばばぁなんて呼んで、現実を突きつけちゃぁいけないよ。現実は大人には厳しいの。

だから、ここで上手な嘘をつくのよ。 今度、お母さんがうるさく言ってきたたら、こう言っておやんなさい。

「お母さん、今日は一段と若々しいね、友達がお母さんのこと美人で、おしとやかで、理想の母親だねって言ってた」こういう風に言うと、お母さんの小言はぐっと減るの。

こういう物言いが人を育てていくのよ。分かるよね。


 大体、爺さん婆さんにならない人間なんざぁ、いないんだから。お前さんだって、いづれは禿げて、腹のでっぱったオヤジになるんだよ。


 え?ならないって、けどね、ならない方が不幸なんだよ。 じいさんばあさんにならないってのは、そこに行く前に死んじまうか、後は、病気で年がとれなくなっちゃって、ずっと若くて、奇麗なまんまでいるかのどっちかだからね。

え、そんな病気見たことも聞いた事もないって、じゃ、今日、初めて見たってわけだ。だって、私がその病気にかかってるんだもの。

全然年をとってないでしょ? 


 え? おばさんも、まだまだ半人前だねって? 

あ、やっぱりお前は子供だね。 ここでこそ、あー確かにその通り、全然年を取っていないねって言うのが、おまえさん、大人の上手な嘘ってもんなんだよ。


*音声配信アプリspoonのキャストに、音声化したものをアップしております。

加筆修正があります。ご了承くださいませ。

https://www.spooncast.net/jp/cast/2887365

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