エピローグ

勘違いは続くよどこまでも

               ルイ


 ボクはモリモト村に帰ってきた。父さんに魔王を倒したことを話したら、「そうか」とだけ言って特に興味もなさそうだった。まあ、そうだよね。魔王ぐらいボクのような勇者でも簡単に倒せるもんね。でも、なぜかそのあと店に陳列される武器の数がかなり増えた。父さんはきっとこれから客がいっぱい来るぞって言ってたけど、どうしてそんなことがわかるんだろう?


 ボクは不思議に思いながら今日も店番をしている。ああ、いい天気だ。どうせお客さんは来ないだろうし、今から布団でも干そうかな。


 ボクが布団を干すために店の奥へと向かおうとしたとき、カランカランと来店を知らせる鐘の音が鳴った。ボクは足を止めてすぐに接客姿勢に入る。



「いらっしゃいませー」


「ルイ、大変だ! 助けてくれ!」


「あれ? ステッサ? それにエルも」



 店の中になだれ込むように入ってきたのはステッサとエルだった。二人ともボロボロで、髪の毛に葉っぱがついていた。どうしたんだろう? そんなに急いで遊びに来てくれたのかな? もしそうだとしたらうれしいかも。でも、助けてってどういうことなんだろう?



「ルイ、大変よ! 魔王が、魔王があらわれたの!」


「魔王が? でも、魔王は確かにボクが倒しましたよ」


「それはそうなのだが、違うのだ! 私たちは勘違いしていたのだ」


「そうよ。勘違いよ、勘違い!」



 勘違い? ボクは何か勘違いしていたのだろうか? う~ん、ボクはそんな勘違いしないと思うんだけどなぁ。勘違いするほどおっちょこちょいじゃないよ、ボク。



「勘違いって、何を勘違いしてたんですか?」


「魔王は、魔王は――一人じゃなかったんだ!」


「えっ!?」


「ルイが倒した魔王は西の魔王フォボスってやつなの。でも、この世界にはほかに北の魔王、東の魔王、南の魔王がいて、その全員を倒さないとモンスターの暴走は止まらないのよ!」


「ああ、現に復興しつつあった私たちのイスブルク王国も再びモンスターの襲撃によって壊滅した。このままではイスブルク王国の復興は夢のまた夢だ!」


「つまりよ、ルイ。お願いだからまたあたしたちと一緒に魔王を倒す旅に出てちょうだい!」


「う~ん……」



 ボクとしてはステッサやルイの手伝いをしてあげたい。でも、ボクはただの武器屋の息子だ。魔王と戦う旅なんて、父さんが許してくれるかどうか――



「ルイ、行ってこい」


「父さん!?」



 父さんは倉庫にしまってあった『勇者の剣』をボクに投げ渡した。今までずっと磨いていたのか、ボクの顔が映るくらいにピカピカに輝いている。



「いいの? 父さん」


「ああ、それがお前の役目なんだ。今度はしっかりやって来いよ」


「父さん……。ありがとう!」



 ボクは満面の笑みで父さんにお礼を言った。ステッサとエルも深々と頭を下げている。



「ルイ、準備はいいか」


「うん。じゃあ、父さん。行ってきます」


「ああ、行ってこい」



 こうして、ボクは再び旅に出ることになった。今度は洗剤を調合するために近くの森に行く旅じゃない。この世界を救うために戦う本物の冒険だ。



「よし。ステッサ、エル。行こう!」


「ああ」「そうね」



 外の世界はいつもより光り輝いて見えた。


 ――まるで『勇者の剣』のように。





                   了

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勇者コンフュージョン 前田薫八 @maeda_kaoru

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