「あだん堂商店街」組合会長 小南宿祢は熟考する

 あだん堂商店街は東西に200の店舗が軒を連ねるアーケード商店街である。飲食店をはじめ、娯楽施設が軒を連ねるこの商店街には様々な客が訪れる。商店街の起源は古く、明治時代に魚市場が集合したことから始まった。アクセスは非常に良く、JR、地下鉄、バスのどれでも訪れるのは簡単だ。そこには様々な人間ドラマがあった。


 そんな「あだん堂商店街」組合会長、小南こなん宿祢すくねは熟考する。この商店街をより盛り上げるには、どうしたら良いのだろうか。


 近くに大型量販店やスーパーが出来始め、商店街自体の売上が落ちてきていたのだ。組合会議を行っても、ろくなアイデアは出ない。


 今日も会議を終えて、帰宅した後、ビールを引っかけながら、小南宿祢は頭を抱えていた。問題は多々ある。商店街の入口付近は新しい店が並んでいて、明るい雰囲気だが、裏路地はアンダーグラウンドな雰囲気のする立ち飲み屋やBARなどがあって、統一感がない。そこが良いところでもあるのだが、客層が絞れていないとも言える。


 近くにある住宅街の住人達は、こぞって近くの量販店やスーパーに流れていた。しかしながら、しっかりとした危機感を持っているのはごく少数の人間だけだ。


 皆、のん気だ。そもそもこの商店街の経営者の殆どが商売っ気がない。商売っ気のある入り口付近の店は活気があって売り上げも下がっていない。それも原因だ。売上が下がっているのは、商店街の中央付近にある飲食店や青果店などの古くからある店なのだが、店主達は殆どが引退間近のロートルか、年金生活で暮らしている老人である。今更、何か行動を起こそうと言う気概がない。


 どうすれば良いのか悩んで、小南宿祢はコンサル会社に勤める息子に相談することにした。長文のメールを送ると、直ぐに既読のマークがついて、電話が掛かって来た。


「ああ、親父?」

「おお。メールの内容、見てくれたか?」

「うん。近くの量販店に押されてるんだって?」

「そうなんだ。正直、もうどうすればいいのか分からなくてな。お手上げだよ」

「大阪にさ、日本一長いアーケード商店街の天神橋筋商店街てんじんばしすじしょうてんがいって商店街があるんだけど、そこのビジネスモデルが面白いよ。参考になると思う」

「へえ。どんなのなんだい?」

「やはりこんな時代だから、HPホームページやSNSの力が強いね。ちゃんとしてるよ。あと、商店街の中の結束力も凄い。イベントを沢山、企画して行ってる。面白い企画だと『満歩状まんぽじょう』って賞状が貰えるイベントがあってさ。店街の両端の店舗にスタンプがあって、両側の店舗でスタンプを押すことにより、日本一長い商店街を端から端まですべて歩き切ったたことを証明する賞状だよ。これは俺も凄い良い企画だと思ったね」

 話を聞いてるだけで、感服した。小南宿祢の諦めかけていた心に火が点いた。


「俺もなんとかしたい。協力してくれ」

「分かった。何か考えてみるよ」

 息子の力強い言葉に小南宿祢は安堵感を覚えた。



 さて、あだん堂商店街の未来はどうなるのか。


 小南宿祢は、熟考を始めた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【あだん堂商店街にて】 三角さんかく @misumi_sankaku

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ