『魔法使い達の夏』

「うーみーだー!」

「おーいテトラちゃん、泳ぐ前にちゃんと日焼け止め塗りなよ」


 そう言うヤコヴもサーフボードを片手に持って楽しむ気満々だ。

 そんな二人の後にウルヴァスとコンキレヲ、エッセッレとレジーナが続く。


「そういえばお前こんなとこに来て大丈夫なのか?」

「来る前にヤコヴに認識阻害の魔法を掛けてもらったからな。人間にはただの英国紳士に見えているはずだ」


 ウルヴァスの問いかけになぜか誇らしげに答えて、コンキレヲは後方を歩く二人を見た。


「……それよりも、あれは放っておいてもいいのか?」

「あぁ、多分大丈夫だろ。エッセッレもなんだかんだでアイツのこと気に入ってるみたいだからな」


 そんな二人の会話が耳に届いて、エッセッレは小さく舌打ちする。


「ほんと、くだらない話ばっかり」

「……あ、あの」

「何?」


 おどおどしながら声をかけたレジーナに、エッセッレは静かに訊ねる。


「今日は、来てくれてありがとうございます」


 そう言ってペコリと頭を下げるレジーナの頭を、エッセッレはぽんぽんと軽く叩いた。

 その度にレジーナの口から可愛いうめき声が漏れる。

 エッセッレは柔らかな笑みを浮かべて、


「ま、あなたには迷惑掛けたし……私もたまには息抜きしないと疲れるもの」

「はい! 今日はいっぱい遊びましょう!」


 そう言って、レジーナは晴れやかに笑った。


「ほんとにあなたって変な子ね」

「わ、私また何か間違えちゃいましたか?」

「違うわよ。そうじゃなくて……あぁ、もう気にしないで!」


 自分に呪いを掛けた相手によく笑顔を向けられるわね、なんて言っても仕方がない。

 エッセッレはレジーナの曇り無い笑顔を見てそう思った。

 しかしそれを言葉にするのも億劫で、彼女はそっとレジーナの手を取った。


「ほら、今日はとことん遊ぶんでしょ? 私を誘ったんだから、最後まで付き合ってもらうわよ」

「……っ! はい! 喜んで!」


 一瞬驚いた顔をしたレジーナだったが、すぐにまた笑顔を浮かべてエッセッレの手を握り返した。


「おーい! そこのお嬢さん達! 一緒に遊ばない?」


 にこやかな笑顔を浮かべて二人に声をかけたのはナンパ男……ではなく、サーフボードを抱えたヤコヴだ。


「お断りよ。私はこの子と遊ぶから。……大体あなたはテトラと一緒だったでしょ」

「テトラちゃんね。浮き輪渡したら一人で泳いでっちゃった……」


 あからさまに肩を落として、ヤコヴが言う。


「じゃあウルヴァスは?」

「ウルヴァスちゃんはあそこで寝てる……」


 ヤコヴが指差した先で、ウルヴァスがビーチパラソルを広げて優雅に寝転んでいた。

 魔法を惜しげもなく使い、ビーチとは思えない快適空間を作り上げている。

 完全に家と変わらない寛ぎようだ。


「あ、コンキレヲさんも子ども達に囲まれてますね」


 ウルヴァスの少し奥では、コンキレヲが壮大な砂の城を築いて、得意げな顔で子ども達と話している。


「じゃあその手に持ってる物で遊んでればいいじゃない」

「せっかく皆で来てるのに寂しすぎない!?」


 こうして、魔法使い達の夏の一時は賑やかに過ぎていった。

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白猫のあくび 宵埜白猫 @shironeko98

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