『コンキレヲ邸の茶会』

 イギリス郊外にあるコンキレヲ邸。

 その中庭にウルヴァスとヤコヴを招待して、久々の茶会が開催されていた。

 茶菓子を摘みながら雑談を交わし、場が温まってきた頃、コンキレヲが口を開く。


「ところで、二人は……テトラ・テラとはどういう関係なんだ?」


 コンキレヲはこの質問をするために、今日二人を招待したのだ。

 二人と交流を持ってからしばらく経つが、実際の所彼らについてコンキレヲが知っている事は少ない。


「…………元嫁」


 しばらくの沈黙の後、ウルヴァスが呟く。

 その言葉にヤコヴはピクリと眉を動かして、


「で、俺の親代わりでもあるよー」


 ウルヴァスとヤコヴの間に漂う空気が、が震える。

 二人の答えを聞いて、コンキレヲは内心焦りまくっていた。


「お、親としての彼女はどうだったんだ?」

「それがさぁ、テトラちゃん全っ然なんにも出来ないの」


 コンキレヲの問いに、ヤコヴはどこか楽しげに声を弾ませて答える。


「料理も掃除も適当だし、魔法なんて天才肌だから教えるのド下手だし。…………でもね、なんだかんだテトラちゃんのおかげで今こうして生きてるのよ」


 昔を懐かしみながら、優しい眼差しで遠くを見つめて、


「俺生まれる時馬鹿みたいな魔力で、母親ミンチにしちゃってさ。俺もその中で死にかけてたんだけど、そんときたまたま近くにいたテトラちゃんに助けられたの」


 ヤコヴは過去を語る。

 テトラに助けられ、育てられていたヤコヴだが、元々の魔力の強さとテトラの頼りなさからすぐに成長した。

 しかし、師としてはわりとポンコツなテトラに弟子入りする事は無く十分に体が成長して二、三年経った頃に、テトラから離れたらしい。


「その後もたまに会ったりはするんだけど、その度に元旦那の話されるから困るんだよね」


 そう締めくくって、ため息とともにウルヴァスを見る。


「……結局なんで別れたんだっけ?」

「お前には全部話したろ」

「ウルヴァスちゃんに聞いた回数よりテトラちゃんからの苦情が断然多いから忘れちゃった」


 笑顔を貼り付けたヤコヴに、ウルヴァスが答えようとした瞬間。


「ウールーヴァースー!!」


 "緑"の物体が座っているウルヴァスに飛んできた。ウルヴァスはその緑共々芝に倒れる。


「ってて…………何しやがんだ、テトラ」

「お前こそ何でオレに居場所教えない癖にこんなとこで悠長に紅茶飲んでるんだ!?」


 そう。

 飛んできたのは件の人物。

 物語の魔女テトラ・テラ。

 彼女はウルヴァスの上に座ったまま、茶会の参加者に視線を移す。


「お、久しぶりだなヤコヴ」

「久しぶり〜。テトラちゃん元気だった〜?」


 手をひらひらと振りながら返すヤコヴに、テトラが笑顔を返す。


「おう! ところでそいつ誰?」

「この茶会の主催のコンキレヲちゃん」

「……コンキレヲだ。よろしく頼む」


 また面倒事に巻き込まれそうな予感を感じ取りながら、コンキレヲはヤコヴの紹介に短く続いた。


「今度から茶会開くときはオレも呼べよ!」


 テトラがヤコヴとは真反対の、裏のない笑顔で言う。


「ああ、ぜひ招待させて頂こう」

「…………終わったかー。終わったらどいてくれ」


 芝に寝転んだウルヴァスがそう言うと、テトラは思い出したようにウルヴァスへの文句をぶつけ始めた。

 コンキレヲとヤコヴはテーブル越しにその様子を眺める。


「止めなくていいのか?」

「いいよいいよ。……それに本気で嫌ならウルヴァスちゃんは自力で逃げれるし」


 文句を口にするテトラも、芝に寝転んでそれを聞くウルヴァスも、静かに様子を眺めるヤコヴすら、どこか楽しげな表情を浮かべている。

 そんな三人の様子にコンキレヲも、小さく口の端を上げるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る