第49話様子が変

――そしてチャイムが鳴る前ギリギリに西条はようやく教室に来た。


「あ! おはよ~西条さーん!」 


俺に意味深な台詞を残したまま、他の女子グループの輪に入って談笑していた工藤がそれに気がつくと、大声で声を掛けた。


だが、西条は、


「……」


工藤に反応する素振りすら見せずに、席に向かう。


「え、無視? てか、今日遅くなーい?」


「……おはよ、ミツキ」


「お、おう」


席に着く前に、俺に一声かけると、そのまま黙々と、制鞄から教科書を取り出して、一限目の準備をし始めた。



★☆★


――西条の様子が何となくいつもと違うなと思ったのは2限目の須藤先生の授業の時だった。


いつもなら背筋をピンと90度に伸ばして、板書を写す為に、休む間もなくシャーペンを走らせる西条。


だが、今日の西条は違った。


シャーペンは握っているけど、あまり動いていない。


それに、微かだが身体が小刻みに左右に揺れ、しまいには手に力が入らなくなったのか、手元からするりとシャーペンが床に落ちた。


――カラン


乾いた音が教室中に響き、そのままシャーペンはコロコロと俺の足元に転がってきた。


「あ」


マジかと思いつつ、反射的に俺はシャーペンを拾い上げ、まだ西条の席にそっと置こうとした。


が、あまりに教室中の注目を集めてしまった。


教科書の問題の解説を板書する須藤先生のチョークがピタリと止まる。


そして背を向けたまま、昨日よりも野太い声で


「……立花ぁ! 今日は居眠りか? 昨日の課題の量じゃ物足りなかったようだな? あ?」


完全に俺の仕業と勘違いしている須藤先生。


前科が俺にはあるから思われてしまったのだが、今回は濡れ衣だ。


そう思い、何と反論して先生をギャフンと言わせようか考える俺だったが、


「すいません先生。寝ていたのは私です。立花君じゃないです」


須藤先生の声で意識を取り戻した西条がバツが悪そうに名乗りあげた。


「‥…あ?」


先生は何を言っているのか分からないとでも言うように間の抜けた声を出し、そのままクルッと身体をこちらを向けた。


そして、もう一度声の主が西条であることを確認すると、目を丸くし、しばらく1人でに何かを呑み込むかのように、相槌をうち、



「……ん? んんー? 西条、か。どうした? 体調悪いのか?」


柔らかい口調。


俺の時とは180℃違って優しい態度。

(これが日頃の行いって奴か?)


そんな須藤先生に対し、西条は


「‥いえ。ですが、少し顔を洗って来て良いですか?」


「良いよ。良いよ。全然構わん。行ってきて良し!」


「ありがとうございます」


俺なら絶対出ないであろうゴーサインを貰った西条は、そのまま静かに席を立ち、教室を出て行った。









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――キスしてみませんか?~ツンデレ同級生に振られた俺は、グイグイ来る後輩に迫られて――?~ 夜道に桜 @kakuyomisyosinnsya

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