第48話立花にしかできない事

8:07


昨日とは違って、ちゃんとチャイムが鳴り終えるまでに、教室に無事入った俺。


ひとまず、2日連続での失態を避けれたことにホッと胸を撫でおろした。


そして、ぐるっと教室全体を見渡し、まだ半分ぐらいしか皆着ていない事を安全確認した俺は、堂々と席に向かって着席した。


(いや、遅刻してねーって素晴らしいな。こそこそと泥棒みたいに気配を消す必要もないし)


人権を失っていた昨日とは違う。


その事実だけで、俺は謎の優越感を感じつつ、鞄から教科書を取り出していると、


「おっは〜立花。今日はちゃんと来たんだ。えらーい!」


パチパチと拍手しながら、工藤がちょっと小馬鹿にした口調で喋りかけてきた。


「まあな。……てか、あれ西条は? まだ来てねーの?」


いつもなら俺が学校に来る頃にはもう自習しているはずの西条の姿が見えない。


「あれ? 本当だ。珍し~」


工藤も意外そうに大袈裟に手で口元を覆いつつ、


「ま、ちゃんともうすぐしたら来るでしょ~。……ね、そんな事よりさ」


西条がまだ来ていない事を良い事に工藤は「ウヒッ……ウヒヒヒ……」と何ともまあ女子が出して良い声とは思えない下品な呻き声を出しつつ、西条の机に座った。


「んだよ?」


俺が苛立った声で聞き返すと、工藤は、


「立花くーん。ちょっと君に関する良くない噂を耳にしてね~」


「あ? 何の事だ?」


「またまた~。……一個下のマドンナに手出したってのは本当ですかぁ~?」


「……マ、マドンナ? もしかして皇の事言ってんのか?」


俺がそう答えると、工藤は、両手で大きな丸を作って、


「ピンポーン」


「……」


どこから、いやあんだけ一緒に二人で動いていたから当たり前と言えば当たり前だが……、それでも情報早すぎだろ。


俺が絶句していると、工藤は首を縦に振りながら、スッと俺の肩に手を置いて、


「分かる。分かるよぉ~。西条さんにフラれてショックだったどーてい君の立花の傷ついた心にあのマドンナは強すぎるって〜」


「あのな工藤……」


どちらかと言えば、いつも聞き専な工藤がこんなに話し手に回るのは珍しい。


俺が反論しようとすると、工藤はさっきまでのはぐらした感じから一転、少し声を潜め、険しい顔で言った。


「‥‥でも西条さんから目を離さないで。‥‥お願い」













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