第15話 23:30の女

 怪獣さんは、とにかく連絡事項を報告するのが遅い。


 6年生の時、水泳の授業が明日あるから、水着を出して欲しい。と、前日23:30に言ってくる。


「何? 去年の合わないの? 何でもっと早く言わないの!」

叱りつつ、お姉ちゃんの水着を出してくる母。それに着替えたらしいのに、部屋から出てこない。


「どうしたの? 合わないの?」

部屋の外から声をかける。

「うん……ちょっと大きいみたい。」

怪獣さんは151cm。お姉ちゃんは156cm。確かに大きさは違うけど、お姉ちゃんの水着は今使っている一つ前のやつなので、小さいはず。


 おかしいなあ。

「どれくらい大きいの?」

 

 部屋に入って、

「……」


「大きいっていうかさ……前が開きすぎなんだよね……」

と言って、水着を着て見せる怪獣さん。

「これは恥ずかしいよ~」

「ホントに恥ずかしいな。前後逆だよ!」



 北海道は夏でも涼しすぎて、海水浴とは殆ど無縁のところも多いです。そんな中、娘の高校の修学旅行は、沖繩。

「泳ぐぞー!!」

と、張り切る道民。

「11月だけどな!!」

 沖縄とは言え、そんな時季には地元民は泳いでいませんね。北国の人ならではでしょう。


 ルンルンで荷物を作っていた怪獣さん。


 前日、23:30、お約束のように言ってきます。

「お母さん、ビーチサンダルがない」

そうだわなぁ。こっち来て海水浴行くこともないしなあ。11月にビーチサンダル売ってるわけもないよなあ。


早く言えよ!!

実家に売るほどあるわ!!


 仕方ないので、私の普通の革のサンダルを貸し出しました。6,000円くらいしたはず……。海水に濡れて……死んだな、これは。


 そして11月の沖縄であほみたいに海水浴を満喫し、-5℃の北海道に帰ってきた怪獣さん。

 当たり前のように、着ていったコートはスーツケースの奥。怪獣さん、バス降りて余りの寒さにギャーギャー。まあ、大体そんなことだろうと、

「別のコート持って迎えに行くぞ」

気付いた父に感謝しなさいね。


…………。


 っていうか、お前はいつまで怪獣なんだい?

 そろそろ人間になっておくれ。


 いつまでも頭を抱えてしまう母なのでした。

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かつての怪獣さん(♀) 緋雪 @hiyuki0714

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