もしものバレンタイン。

夏艸 春賀

声劇台本

《諸注意》

※ツイキャス等で声劇で演じる場合、連絡は要りません。

※金銭が発生する場合は必ず連絡をお願いします。

※作者名【夏艸なつくさ 春賀はるか】とタイトルとURLと配役の記載をお願いします。

※録画・公開OK、無断転載を禁止。

※雰囲気を壊さない程度のアドリブ可能。

※所要時間約20分。男女比率1:2の声劇台本です。




《役紹介》

茅場 八重(チバ ヤエ)

見た目は30代

口が悪い

半妖(吸血鬼)

美人系、一人称『俺』



木ノ下 美咲(キノシタ ミサキ)

見た目は20代後半〜30代前半

かしましい

人妻、娘が二人いる

可愛い系、一人称『私』



更衣 紫文(キサラギ シモン)

見た目は30代前半

おっとりナンパ野郎

半妖(鬼)

がっしりした格好良い系、一人称『俺』



《配役表》

八重(女):

美咲(女):

紫文(男):


《補足》

※今回は八重の姿が美咲に見えない状態なのを『』で記しています。

※八重が弱体化したが為に人間には見えない仕様だと分けただけです。




↓以下本編↓

────────────────────



美咲

(玄関ぶっ壊れる勢いで開けながら。)

「やっほほーーい! ハッピーバレンタイン!!!……て、え、いない!?」


八重

『あー、とりあえず玄関壊れてねぇだろな?』


美咲

「はーん、さてはまだ寝てるなぁ? おーい、やーえー?……て、ベッドにもいないじゃーん」


八重

『あ?……あー、なるほど。これ見えてねぇな?』


美咲

「どーこ行ったんだろ、まだ昼間なのに。おっかしいなー……おーい、八重やえー? 八重ちゃーん?」


八重

『なんで戸棚から探すんだよ。ンな狭ぇとこ入れるわけねぇだろ。ゴミ箱も無理だわ』


美咲

八重やえさんやーい、隠れてないででーておーいでー!……うーん、せっかく手作りチョコ持ってきたのにぃ〜」


八重

『持ち帰ってどーぞー』


美咲

八重やえ専用でチョコの中に唐辛子エキスガチ盛りで入れたのになー、無駄になるじゃーん」


八重

『甘さと辛さ混ぜんな』


紫文

(玄関の扉を開けながら。)

八重やえっ! 今日はバレンタイン! 愛し合う男女が愛の語らいをする日だ!……と。おや?」


八重

『ぅげっ』


美咲

「あらま! えーっと、紫文しもんさん、でしたっけ? 八重やえならいませんよー」


紫文

「いない? そこにいるではないか。八重やえ、何故そんな嫌そうな顔をしているのかな?」


八重

『あー……うん。なんでアンタなんだろうなって』


美咲

「んぅ? 八重やえ?」


八重

『そー、俺ずっといるんだわ。とか言っても聞こえねぇんだよなぁ』


紫文

「そうだね。美咲嬢みさきじょうには見えないようだけど、ずっとここにいるみたいだよ。どうやら何か、力場りきばの様なものがあって、八重やえちからが弱まっているようだ」


八重

『あー、それな。この部屋の上に昨日霊能者っぽい人間が遊びに来たみてぇでな』


紫文

「ほう?」


八重

『上の階の家主やぬしにそいつが変な術を教えたらしくてよ。昨夜ゆうべそれを試しやがって』


紫文

「君に効果が出てしまったと」


八重

『おうよ』


美咲

「え、何、八重やえちから? え?」


紫文

八重やえは今ここにいるが、人間に見えないようにされてしまっているようだ。つまり! 己の力が弱まってしまった事に動揺し、助けを求めていた所へ俺が颯爽さっそうと登場した事で安堵! そして今は正に、感極まって涙を流しているんだ!!」


八重

『いや、有り得ねぇ事ほざくな』(下の台詞とほぼ同時に。)

美咲

「いや、有り得なくない?」(上の台詞とほぼ同時に。)


紫文

「うん、二人の思考は完全に同化しているようで何より!」


美咲

「え、まじ?」


紫文

「綺麗な二重奏、あるいはズレていたとしてもほぼ同時だったよ」


美咲

「やったね奇跡!」


八重

『喜んでんじゃねぇ』


美咲

「てへぺろ」


八重

『実は見えてんじゃねぇか? こいつ』


紫文

「見えてはいないようだよ。あさっての方を見ているしね。俺が来た事で声は聞こえるかもしれないが」


八重

『マァジで?』


美咲

「ん、あれ?  八重やえの声がする!」


八重

『マジやんけ』


美咲

「んもー、どこに行ってたのー」


八重

『いや、俺こっち』


美咲

「え、どっち?」


八重

『まぁ、声が聞こえるだけでもいっか』


紫文

「少しの間の辛抱だとは思うよ。術とやらは時間経過で解除されるタイプのもののようだからね」


美咲

「そうなんだー、一安心」


八重

『とは言え、今日一日は無理っぽいが』


美咲

「大変だー。これ、紫文しもんさんがいてくれないと声さえ聞こえないもんなぁ……どうしよ」


紫文

「なるほど、今日は私を離さないでということ……」


八重

『(遮って。) ンな事一言も言ってねぇ』


美咲

「でも、どうしよ。今日限定で行ける激辛ラーメン屋に一緒に行こうと思ってたのに」


紫文

「そもそも外に出るのはやめておいた方が良いがね」


美咲

「え、なんで?」


紫文

「曲りなりにも八重やえは王族だからね。弱っていると分かればたちまちよからぬ者に狙われる」


八重

『王族とか言うな』


美咲

「え、八重やえってばお姫様だったの?!」


八重

『違ぇ』


紫文

「その通り」


美咲

「そっかー、お姫様なんだー、へー?」


八重

『ニヤニヤすんな』


紫文

「どうしても出掛けたいと言うのであれば、俺が同行しよう」


八重

『あ?』


美咲

「え、なになに、それって護衛的なアレ的な?」


八重

『ワクワクしてんじゃねぇ』


美咲

「でもなぁ……はたから見たら私が紫文しもんさんと歩いてるだけでしょ?」


紫文

「そうだね。八重やえの姿は一般の人間には見えない」


美咲

「それはさすがに困るからやめとくー」


八重

『珍しく引くんやな』


美咲

「だって、私が連れ出したいのは八重やえだけだからね。男の人と歩いてたら旦那にも勘違いされるだろうし、そうなると後々面倒くさいもん」


八重

『それな』


紫文

「なるほど、それなら俺は帰るとするか」


八重

『おー、帰れ帰れ』


美咲

「え、待って。紫文しもんさん帰ったら私が八重やえの声聞こえないんでしょ?」


八重

『そうだな』


美咲

「せっかく遊びに来たのに、喋れなくなったらつまんないじゃん」


八重

『いや、美咲みさきも帰れば良くね?』


美咲

「え、やだ」


八重

『なんでだよ』


美咲

「私は今日遊びたいの!」


八重

『わがまま娘が』


紫文

「なんとも面白い光景だ。天井を見ながら話す美咲嬢みさきじょうと腕組みしながらソファに座って受け答える八重やえ


美咲

「え、ソファにいるの?! こっちね?」


紫文

「そうそう、その辺り」


美咲

「そんで!」


八重

『いや……今日は本当に帰れよ』


美咲

「なんで? 私といるの、いや?」


八重

『違ぇ。また明日にでも来りゃいいだろっつー話』


美咲

「……だってぇ」


八重

『バレンタインの家族サービスはしてやんねぇのか?』


美咲

「うう」


八重

『俺とばっか遊んでんじゃねぇ』


美咲

「……うー!! いいもんいいもん!! 八重やえの馬鹿! もう知らない!!!」

(駆け足で出て行く。)


紫文

「……良いのかい?」


八重

『……良いわけねぇだろ……』


紫文

「なら、少しでも早く快復かいふくしなくてはね」


八重

『見せらんねぇよ……こんなん』


紫文

「君もここに来て年々弱っているのは事実だ。観念して俺のモノになればいいものを」


八重

『うっせ。修行だ修行。……なぁ、紫文しもん


紫文

「なんだい?」


八重

『後で、一緒に……──(何かを囁く。)』


紫文

「……ふ、ふふ。お易い御用だ」



【間】


《数日後、美咲の自宅》



美咲

「はぁい〜どなたー……って、え……」


八重

「よぉ、元気だっぐえ」


美咲

「(腰に抱き着いている。)……う、ううう!」


八重

「めっちゃ苦しいんですがねぇ、美咲みさきさん?」


美咲

「んうううううううううう!」


八重

「悪かったって。一応謝りにきた」


美咲

「家、行ってもいなかったのなんで?」


八重

「んあ〜、ちょいとな、野暮用で」


紫文

「実家に行っていたのだよ」


美咲

「へあ?! あ、いたの、紫文しもんさん」


八重

「……着いて来いとまでは言ってねぇはずだったんだがな?」


紫文

「照れ隠しか」


八重

「違ぇわ」


美咲

「ていうか入って二人とも。今誰もいないからだいじょぶ」


八重

「いや、良い。すぐ帰る」


美咲

「んでも……」


八重

美咲みさき、あのな」


美咲

「うん、だから入ってゆっくり話そ」


八重

「聞け」


美咲

「やだ」


八重

「聞けって、な?」


美咲

「やだぁ!」


紫文

美咲嬢みさきじょう、別れを言いに来たのではないよ」


美咲

「え? フラグめっちゃ立ってたのに?」


紫文

八重やえはね、人間界から少し離れるんだ」


美咲

「いや、お別れじゃんばかぁ!!」


八重

「違ぇってば。美咲みさきを俺の実家に連れ去っていいかって聞きにきたんだっつの!」


美咲

「連れ去る?! 紫文しもんさんに八重やえが、取られる!?」


紫文

「そうしたいのはやまやまだがね」


美咲

「やだー!! 私の八重やえだもん!!」


八重

「……とりあえず落ち着いてくんねぇか?」


美咲

「……うう、うん。でもとりあえず玄関には入って欲しい」


八重

「あぁ、おっけ」


美咲

「それで、なんだっけ。連れ去るとかなんとか」


八重

「おうよ。俺は美咲みさきが大好きで大好きで仕方なくて、愛してるんで、人間界から連れ出してやろうかと」


紫文

「住まいなどの手配は向こうでは済ませてあるよ」


美咲

「……う〜、ん? いや待って、いきなりのデレ期? どういうこと?」


八重

「いやアレよ。俺、吸血鬼界隈だと割と古い部類の種族でな。始祖しそに近いんよ」


美咲

「う? シソ?」


八重

「始まりに近いっつーか。ほんで、そろぼち嫁か旦那を、連れて来いって言われてるわけよ」


紫文

「もちろん俺が旦那候補だね」


八重

「コイツがいても俺、つまんねぇわけ」


紫文

「サラッと酷いね」


八重

「けど、美咲みさきとすずがいてくれりゃ俺は楽しく暮らせるわけよ」


紫文

「俺はフラれてしまった」


八重

「んだから、連れ去りに来た」


美咲

「え、っと。私、人妻」


八重

「身代わりは置いとく」


美咲

「んと……私、子供が」


八重

「まとめて面倒みてやんよ」


美咲

「……えーっと……」


八重

美咲みさき


美咲

「ん、はい!」


八重

「俺と結婚しようぜ」


美咲

「……くっ! なにこれなにこれ! なんで玄関でやらせてんの、私!!」


紫文

「ちなみに、俺はフラれているが諦めてはいないので、美咲嬢みさきじょうとはライバルとなるわけだ」


八重

「天地ほど差があるがな」


美咲

「ひええ!」


八重

「なぁ、美咲みさき……だめか? 人間界の方が良いってならたまには来れるし。俺の嫁なら誰も手出ししねぇよ?」


美咲

「やっ、あの、でも……人間界とかそうじゃない世界とか、ファンタジーなんじゃなかったの?」


八重

「それで片付けたいならもう俺は美咲みさきの前に姿を現さない」


美咲

「えっ……」


紫文

「そもそも相容れぬ存在だからね、本来なら」


美咲

「で、でも、昔から知って……え、あれ?」


八重

「記憶を植え付けるのは、俺には容易だ」


紫文

「今を断るのであれば、もう二度とここには来れないだろうね。何せ人間に執心しゅうしんしていたんだ。それなりの罰はあるよ」


美咲

「え、それを受けるのって八重?」


八重

「おう」


紫文

「吸血鬼の苦手な物を全て試されてもおかしくはないだろうね」


美咲

「え、それって私が悪い?」


八重

「いいや、悪くねぇ。俺が勝手に想ってただけだ。そんでもって、俺がここで一人で帰れば全部忘れる」


美咲

「え、どういうこと?」


八重

「俺の存在ごと、美咲みさきの記憶の中から消すってこと」


美咲

「え、待って。今まで通りじゃ駄目なの?」


八重

「バレちまったからなぁ」


美咲

「何が?」


八重

「人間の、しかも同性の女を愛してる事を」


美咲

「うん、誰に?」


八重

「一番バレちまうとやばい連中に」


美咲

「んえ? えっと、分かんない、どういうこと?」


紫文

所謂いわゆる、敵対勢力ということだよ」


八重

「人間は餌以外の何者でもないっていう連中がいるわけよ」


美咲

「うわあ、吸血鬼っぽい」


八重

「そういう奴らに、見つかっちまったわけよ。俺も美咲みさきも」


美咲

「私も?!」


八重

「そー。だから、今連れ帰れば俺の嫁って事で俺がそばで守れるわけよ」


美咲

「え、じゃあ、このまま私が断ってはいさようならしたら?」


八重

「俺と紫文しもんの能力使って、そいつらの記憶と、俺と関わった人間の記憶を全部ごっそり消去するっつーこと」


美咲

「……お、お別れだーって泣くことも出来ない?」


八重

「そもそもいないやつの事で泣けるか?」


美咲

「……そ、れもそっか」


八重

「どうする、美咲みさき。俺と一生一緒にいるか、それとも全て忘れるか」


美咲

「え……どうしよ。私は……──」



【少し長めの間】


《八重の人間界での自宅》


美咲

(玄関の扉をガンガン叩きながら。)

八重やえーー!!! あーけーてー!!」


八重

「んぁ、あれ?」(寝ぼけ眼。)


美咲

「やーーーーーーーえーーーーーーーー!!!」(ガンガンガンガン。)


八重

「うっせ、はいはい、今開けるっつーの」


美咲

八重やえ!!  やっと開けてくれた。おはよ! ハッピーバレンタイン!!!」


八重

「……あ?」


美咲

「まったくもー、いつまで寝てんの、夜はこれからなのに!!」


八重

「ぅん?」


美咲

「手作りチョコ持ってきたからさ! 食べて?」


八重

「……おう、とりあえず今日は、何すんだよ」


美咲

「えっへへ、今日はねー、バレンタイン限定で開店してる激辛ラーメン屋に行こうと思って!!」







終わり




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もしものバレンタイン。 夏艸 春賀 @jps_cy729

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