第2話 自宅警備業務に消火は含まれるか?

「喧嘩売ってんのか⁈あぁ?」

 これが、インターフォンから聞こえた第一声である。

 何をしたと聞かれれば、「ちょっと外の様子を確認して欲しいんだけど。」と言ったまで。喧嘩など売ってはいない。酷い言い掛かりだ。

「売ってません。まあ、せいぜい火傷しない様に気を付けて下さい。それでは。」

 よし、起きてる。忠告はしたし、戻ろう。

「おい、ちょっと待てよ!何なんだよ!」

「要件は伝えましたが?」

「外がどうしたんだよ!俺は忙しくて手が離せ無えんだ。」

 インターフォンから、微かに何かのBGMが聞こえている。何か、ゲームっぽい。

「そうですか、お忙しいところ失礼しました。大した事ではありませんので、お気になさらず。」

 今度こそ、立ち去る。

 その後、インターフォンの向こうの男・沼田 走野が飛び出してくるまで、時間はあまりかからなかった。


「何が大した事無いだ、家燃えてんじゃ無えか!」

「起きてるなら死なないでしょ?」

「大事の基準そこじゃねえだろ!俺の部屋に置いてある大事なものが燃えたらどうしてくれる!」

 責任は無いからどうもできないと言おうとしたところで、蓮花さんからも注意を受ける。

「そうだよ、交替要員がいるなら、一刻も早く欲しいの。ちゃんと事態を伝えてもらわないと。」

「なるほど!」

「ほら、替わって、走野君!」

「いやいや待て待て、何を俺がすること前提で喋っている。誰がすると言った?お前らだけでやればいいだろ、俺は部屋に燃え移る前にコレクションを避難させるから。」

 クズっぽいことを言い始めた先輩は、このままだと使い物にならなくなる。仕方ない。

「蓮花さん、二人で交替しよう!この人もうダメだ!」

「くぅ、仕方ないか。」


「やっぱりえぐいな」

 交替して直ぐ、体に係る反動に吹き飛ばされそうになる。

「大丈夫?圧下げてもらおうか?」

「大丈夫。耐えられます。それより、少し左振ります。」

 左。即ち、沼田家と逆方向。

 家に戻りかけていた使えない人が、それを見てフルダッシュで戻ってくる。

「おいおい!何ずらしてるんだよ!ちゃんと俺ん家の方掛けろよ!」

「そう思うのなら、ご自身でどうぞ。それとも何ですか、自身のレベルが低くてこれを扱えないとでも?」

「そんなことは絶対に無い!俺のステータスはあらゆる面で凡人を凌駕しているのだからな。そこを替われ!」


「なんっだっ、この魔力消費は。無尽蔵の魔力が一瞬にして枯渇するだとっ!」


 この火事で、空き家3棟と物置1棟が全焼することになるが、沼田家は少し焦げるだけで済んだ。それは、住人が初期消火に努めた成果である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

井の水は冷えている 百能の凡才 @hyakubonn

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ