第2話 拝啓、入学先で死んだはずの妹に会いました(人間違いだから!早く土下座して謝って!)

桜泉女学園高等部入学式の前日早朝。私・夢川由紀は始発駅に停車している、第三研究区と第四研究区を結ぶ列車の中にいた。


 公国は第一研究区から第八研究区までの8つの行政区域に分かれていて、基本的に研究区間の行き来は許されてない。


 普段は許されない研究区間の移動。それが私に許された理由はいたってシンプル。私が魔法少女だったから。魔法少女だと、研究区をまたいだ進学もしやすくなる。そして、私はお父さんが決めてくれた第四研究にある桜泉女学園に進学するため、今まさに出発しようとしていた。


 正直生まれ育った研究区を離れることに不安はあった。というか、不安しかなかった。これまで研究区間の移動どころか、1人で出かけた経験など殆どなかった。ただでさえ人見知りの激しい私が、全く知らない土地で一人暮らしをするなんてやっていける気がしない。


 それでも、第四研究区にある桜泉女学園にある学校への進学を決めた時、不安に押しつぶされそうになりながらもこれは自分に対する試練だとも、また思った。これまで妹に頼りっきりで、その妹が死んでからはずっとふさぎ込んでばかりだった弱い私を変えるチャンスだと思った。




出発を告げる汽笛が駅舎に鳴り響く。私は首から掛けたロケットを開き、中の写真に話しかける。


「お姉様、お姉ちゃん、ちゃんと一人で生きていけるようになって見せるから。だから、第四研究区に行っても天国から見守っていてね。」


 そして、列車はゆっくりと動き出す。





 第四研究区に着いてからは新しいことの連続で、人見知りだから、コミュ障だから、なんて言っていられなかった。寮についての荷物の整理、寮母さんへの到着の報告、そして初めての登校に式への出席など、周囲の目を気にしている余裕すらなかった。そして、再び私が周囲の目を気にするようになったのは入学式が終わって下校する時になってからだった。


 昇降口を出ると上級生らしき人達が群がっていた。


 部活か何かの勧誘かな、こういう人込み苦手なんだけど早くいなくなってくれないかな。


そんなことを考えながら待っていても、目をらんらんと輝かせながら出てくる新入生を待ち構えている先輩方はそう簡単にいなくなってくれそうにない。仕方なく、私が気合を入れて俯いたまま人ごみの中を抜けようとした時だった。


「あ、あなた、入学時の席次が5位の夢川由紀さんよね?」


 いきなり私の名前が呼ばれる。ぎょっとして顔を上げると、一斉に私に視線が集まる。その視線が人見知りの私には刃物で刺されるように痛い。


 そんな私の感情などお構いなしに、私に注目した先輩方は勢いよくまくしたて始める。


「私と武双姉妹にならない?私なら、あなたを半年で2類魔法少女にして見せるわ。」


「いや、私と組まない?現役3類魔法少女の私と一緒にいれば、学べることも多いと思うの。」


「いやいや、君みたいな才能溢れる子は早く実践で活躍すべきだ。現役2類魔法少女の私と武双姉妹になれば、私と一緒に各地の救援要請に出向くことも多いだろうから、君の才能を早くから生かせるはずだよ。」


 言っている内容自体訳わからなかったけれど、それ以上にどんどん私に詰め寄ってくる先輩方が怖くなって、私は俯いて身を縮こまらせてしまう。


「わ、私のこと、誰かと勘違いしてませんか……?」


 小声ながらもようやく絞り出した私の抵抗はすぐに先輩たちの勧誘の声にかき消される。


 そしてしまいには


「私と一緒に組みましょう。私、こう見えても現役風紀委員なの。実力は確かよ。」


と赤髪の先輩が私の腕を無理やりつかんで引っ張ってくる。腕を掴まれた瞬間、小心者の私の中の恐怖心は頂点に達する。その時にはもう抵抗する勇気なんてなかった。


 お願い、誰か助けて―――!心の中でそう叫んで目をぎゅっと瞑った時だった。


 鈍い音がして赤髪の先輩の頭が上から蹴り降ろされ、彼女の拘束から私は解き放たれる。


 私に集中していた視線が移るのを感じる。恐る恐る目を開けると、皆の注目は今さっき空から降ってきた少女に集中していた。


 肩まで伸ばした美しい白髪、金色の瞳。その、王子様のように私を颯爽と救った少女の容姿に、私は目を疑った。だって、彼女の姿は私がもうこの世界では二度と会うことのないと思っていた人―――死んだ妹にそっくりだったから。


 でも、何度確認してもこれは幻覚なんかじゃなかった。


 夢じゃない。だとしたら、これは運命?そう思うと、とたんに私の中に熱い感情がこみあげてくる。それは、段々と制御できなくなる。


「いったぁ、いきなり空から降ってきて何よ。」


「ごめんごめん、昇降口が塞がれてたから空中浮遊で帰ろうと思ったんだけど途中で落ちちゃって。いいところにクッションがあって助かったよ。」


「助かった、って、あんたねぇ。」


 周囲のことなんてもう見えていなかった。私は赤髪の少女と空から降ってきた少女が話していることなどお構いなしに空から降ってきた少女に抱き着く。


「お姉様!来てくれたんだね。 私、1人で頑張ったけれど無理だった。1人ですっごく心細くて、すっごく怖かったよぉ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る