「最強」に見限られた落ちこぼれの私が、魔法少女偏差値70のゆるふわ少女に「姉妹になってください!」と求婚されたのですが、何かの間違いですよね?〜魔法少女たちの遺した終戦前史〜
第1話 もしこの国の外の世界があったら(現実は魔獣と戯れるだけでしょうが。)
第1部 公国編
序章 記憶を失った少女と妹を失った少女が出会った日
第1話 もしこの国の外の世界があったら(現実は魔獣と戯れるだけでしょうが。)
「魔法少女って、そんなに偉いのかな。」
桜泉女学園に向かって歩きながら、私は横を歩くあかりに対してこう話しかける。対してあかりはうんざりとした表情を隠そうともせず、
「またその話?」
と顔をしかめた。でも、本当にそう思うんだよね。
今から80年ほど前。遺伝子変異で現れるようになった「魔獣」による被害で人類は滅亡しかかった。そして世界人口が1/7まで減りかけていた時。一部の少女が「魔法」に目覚め、反攻を開始した。
彼女達は「戦闘系魔法少女」と、情報処理能力に長けた「情報系魔法少女」に大きく区分でき、2種類の魔法少女達は魔獣を殲滅するとまではいかなくても、何とか極東の小さな島に人類の安全圏を創ることに成功した。人類に残された最後の砦、そこは、「公国」と名付けられた。
今でも公国に侵攻しようとしてくる魔獣と、それを防ごうとする魔法少女の戦いは公国沿岸部で続いている。戦闘系魔法少女の卵は私のように、専門の魔法少女育成機関で戦闘訓練を受け、将来は魔獣との戦いに動員されることになっている。
そんな経緯もあって、公国ではちょっとした身分制度みたいなものがある。23世紀にもなって制度としての身分制度があるわけじゃないけれど、社会慣習的になんとなく戦闘系魔法少女にその他は逆らえない、という雰囲気がある。魔法少女が通るならば道を上げて頭を下げろ。そんな、時代錯誤も甚だしい大名行列みたいなことが誰に言われるともなく公国社会では普通に見られる。
それに対し、安全圏を一度確立して用済みになった情報系魔法少女は不正なハッキング事件などもあり、カーストの最下位に位置付けられるようになった。一般市民が戦闘系魔法少女を仰ぎ、情報系魔法少女を見下す。それは、戦闘系魔法少女に頼りっぱなしで気まずい感情を、下の者を見つけて鬱憤を晴らしたいだけのように思えた。
実際に戦闘系魔法少女がいるからこそ、この国は何とかなっているところはあるし、多少は仕方ないんだろうな、とも思う。でも、こんな社会に生きづらさを感じていないというと嘘になる。
「じゃあ、白雪は実力でねじ伏せてこの社会から身分差別をなくしてやる、とでもいうべき?」
あかりの意地悪な質問に私は肩をすくめる。
「まさか。魔法少女偏差値なんてものがあったら40くらいしかない、落ちこぼれの私だよ?そんな私に社会を変えることなんてできるわけないじゃん。私にできることと言ったら……。」
話しながら私達は十字路に差し掛かる。すると、十字路の手前にリンゴの詰め込まれた大きな紙袋を抱えた小さな男の子が困ったような表情をしていた。
この国では魔法少女が横断しているところを一般人が横切るなんて社会的に許されない。そんなことは、6歳にもなれば自然と刷り込まれてしまう。
そして、彼は今日、公国トップクラスの魔法少女育成校である桜泉女学園が入学式で、いつもより生徒の登校時間が1時間遅いことを知らずに生徒たちの登校とかち合って右往左往している、そんなところかな。
こんな小さな子にまでそんな窮屈な気持ちを差せるなんて間違ってる。そう思いながらも、どうせ自分には何もできないと自分に言い聞かせ、通り過ぎようとしたところだった。
「あっ。」
男の子が小さく呟く。見ると、バランスを崩してしまったのか紙袋に入っていたリンゴが道に散らばり、一部は魔法少女達の歩く道へと転がってしまった。それを見て私が想像した光景は質の悪い魔法少女がリンゴのせいで転び、男の子に難癖をつけているというものだった。その光景を思い浮かべた瞬間、私は無意識に呟いていた。
「術式発動:身体強化」
魔法で速度強化した身体で高速移動し、転がり落ちたリンゴを全て拾い上げる。そして、1秒後には私はリンゴを抱えて男の子の前に立っていた。
私の早業に驚いたのか、それとも魔法少女が自分を怒りに来たとでも思ったのか、男の子の体はガチガチになっていた。そんな男の子と視線を合わせるために私は中腰になり、静かに話しかける。
「大丈夫。別に怒るつもりなんてないよ。君を怒る理由なんてないしね。私はただ、君のことを助けたいだけ。」
そう言って私は抱えていたリンゴを紙袋の中に入れる。そこでようやく男の子は
「あ、ありがとうございます……。」
と、たどたどしいながらも口を開いてくれた。
「お使い?」
私の言葉にこくん、とうなづく男の子。
「お母さんが病気になっちゃって、それで、すぐに何か病気にいいものを買ってきてあげたくて、魔法少女様の登校時刻とか考えずに出てきちゃった……。」
泣きそうな表情になる男の子。その頭を、私は優しく撫でる。
「そっか。お母さん思いだね。なら、この2本先の道から迂回したらどうかな。そこなら、桜泉女学園の通学路になってないはずだから問題ないはずだよ。」
私のアドバイスに男の子の表情がぱっと明るくなる。それを見て私の方も自然と笑顔になる。そして、
「ありがとう、魔法少女のお姉さん。」
という言葉を残して男の子はその場を去っていった。その姿が見えなくなるまで、私はその場に立ち止まっていた。気づくと、いつの間にかあかりが隣までやってきていた。
「私にできることは、せいぜいこんな風にちょっとした人助けをするくらいだよ。でも、こんなことを積み重ねたところで社会を変えられないことはわかってる。結局、私にできることなんてないよ。」
そう答える私のことを、あかりはしばらく何も言わずに見つめてくる。
「ねえ白雪。もしも、もしもの話だけどさ。もしこの国の外の世界があって、そこでは魔法少女も魔法を持たない人も関係なく平等で、しかも魔法少女が戦わなくていい国があるとしたら、白雪はそこに行きたいと思う?」
不意にあかりが私に尋ねてくる。この国の外の世界。そんな、あまりに荒唐無稽な話に私は思わず笑ってしまう。
「そんな世界あるわけないじゃん。この国の外の世界は魔獣で溢れ返っていて、とても人が住めるような環境じゃないよ。」
「それはそうだけど……もしも!もしもの話よ。で、どうなの?」
半分逆ギレしたように聞いてくるあかり。その勢いに飲まれてしまい、私は改めてちゃんと考えてみる。
「まあ、そんな世界線がもしあるなら、見るだけ見てみたいよ。でも、そこに永住したいかどうかはわからない。」
そこで私は大きく深呼吸してから、続ける。
「だって、もしそんな世界線があったとしても、この公国は残り続けるわけでしょ?公国で生きている人はそのままなわけでしょ。だとしたら、自分だけ幸せになればいい、なんてとても言い切れないよ。それに、私が失った記憶は公国に残り続ける。だから、そういう世界線で生き続けたいかどうかと言われると、わからない。」
私の答えに対し、あかりはしばし放心したように聞いていた。
「おーい、あかりさーん。戻ってこーい。」
そう言って私があかりの目の前で手を振ると、あかりはようやくいつもの調子に戻る。
「ごめん。白雪の答えがちょっと意外で。」
「そんな変わったこと言ったかな?」
「魔法少女偏差値なんてものがあるとしたら40しかない頭の割には、割と哲学な答えが返ってきたから。」
「えー、それ酷くなーい?まあ、それを言ったら今日のあかりの方が意外だよ。いつも冷たい現実主義者、って感じのあかりが、まさかそんな空想話をするなんて思わなかった。」
それに対し、あかりは見るからに動揺する。
「い、今の話はなんかふと思っちゃっただけだから。忘れて。何だったら頭殴ってでも忘れさせる。」
そう言って拳を振り上げるあかりが面白くなり、私はあかりから逃げるように走り出す。
「いーや!一生忘れないように心の中に刻み付けておくわ。」
「待ちなさーい!」
そう言ってあかりも走り出す。
周囲の登校中の生徒たちは怪訝そうな表情で私達を見てくるが、そんなの今更気にならない。これが、名門校の落ちこぼれでしかない私達の日常。何もいつもと変わらない。
そう、その時の私はいつもと変わらないと思っていた。その時のあかりが何を考えながら話していたかなんて、その時の私には知る由もなかった。
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