元婚約者の退場と牽制
ダリア家と言えば、この国では割と有名な家名です。いえ、割とではなくかなり有名ですね。強い騎士を輩出する名門一族です。
位は侯爵位。
私の実家であるラテシア伯爵家よりも圧倒的にくらいは上です。しかも同じ侯爵家でも上位に当たるダリア侯爵家ですので、普段から逆らったり反論をしたりするような方はほぼ皆無です。
そして、先ほどからのコーリーの態度は最悪の部類でしょう。
はっきり言って打ち首になってもおかしくはないはずです。まあ、キレス様がどのような対応をするかについては、私はあまりわかりませんが。
「君は先ほどから私の婚約者に対して見下したような態度を取っていたが、あれはどういうつもりだったんだい?」
「え、あ、いや」
キレス様の表情は先ほどから一切変わっていませんが、それがコーリーにとって一番の圧力になっているようですね。確かに笑顔で怒る方は怖い人が多いですからね。同情は一切ありませんが、わからなくはないです。
「まあ、どうだろうと構わないのだけど。どうせ君がこの後どうなるかなんて決まっている事だからね」
「え?」
この場からの排除の事を指しているのでしょう。もしかしたら別のことかもしれませんけれど。
そう言えばコーリーの家はお取り潰しになった結果、当主夫婦が罰をうけることになりましたけれど、コーリーはどのような扱いになるのでしょうか?
まだこの場に居れた。それを考えれば、あの件に直接関わっていなかったという事でしょうから、何の罰もないのでしょうか。それとも軽度の罰則が発生する形になるのでしょうか?
「とりあえず君は、この場に居る権利はない」
とりあえず、というキレス様の言葉からしてこの場からの排除だけではなさそうですね。おそらくこれからコーリーの両親が拘束されている場所にでも送られることになるのでしょう。その後どうなるのかはコーリーの態度次第かもしれませんね。
「そして貴族ではなくなった以上、この学園に通う事は出来ないし、この夜会に参加する資格もない。さっさと退場することだな」
キレス様がそう言うとコーリーを抑えていた護衛の方たちに引き摺られて行きました。まだ多少の抵抗を見せていたコーリーでしたが、護衛の方たちの力に敵う事はなく、そのまま夜会の会場から姿を消しました。
コーリーが夜会の会場からいなくなると、野次馬をしていた方たちはすぐに元の場所へ戻って行きました。
これは見世物が終わったから、というよりもダリア家に喧嘩を売りたくない、そんな感情からの物でしょうね。騎士団には多くの貴族の方が所属していますから下手な事をしてしまえば、その方の今後の騎士団内での活動に影響が出てしまいます。
それと、警備の方がコーリーをすぐに連れて行かなかったのは、キレス様からそうするようにと指示を受けていた可能性がありますね。
キレス様が指示を出した瞬間に動き出しましたし、その可能性は非常に高いでしょう。
「ノエル、大丈夫だったかい?」
「大丈夫ですよ。それに最初から見ていたのでしょう?」
「ははは、まあね」
先ほどの展開になるようにコーリーを焚きつけたとは思えませんので、最初から最後まで仕込みという事はないでしょうが、どうやらキレス様が今回の騒動を裏から操作していたようですね。突発的に起きたことだとすれば、キレス様の行動はタイミングが良すぎましたから、そうとしか思えません。
「どうしてあのような事を?」
「あの者の家の関係だね。実はあの者も罪に関わっていたから、それであのような形にしてみたんだ」
「なるほど、そうだったのですか」
コーリーもあの不正に関わっていたのですね。私は学園に通っていた影響で結果しか聞くことが出来なかったため詳しい事情は分かりませんが、コーリーが私との婚約を破棄する振りをして気を引こうとしたのはそれに関係しているのかもしれません。
「それに、私が君と婚約していることを他の者たちに示す、絶好の機会だったからね。これで君に手を出すような者は出て来ないだろうさ」
「え?」
まさかそのような意図もあったとは。いえ、効果自体はあるでしょうけれど、そもそもこの場でそれを公表する意味はあるのでしょうか。もう少し正式な場で発表する方が効果はあると思うのですが。
「ダリア家に喧嘩を売るような方はいないでしょうから効果的でしょうね」
どうあれ、これだけは確実なことでしょう。
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