婚約破棄? いえ、そもそも貴方の家は先日お取り潰しになっていますよ?

にがりの少なかった豆腐

貴方はもう貴族ではない

 

「ノエル。私はお前との婚約をこの場を持って破棄させてもらう!」


 学園の夜会。さほど規模は大きくないとはいえ、それなりに人が居る中で目の前の男性から私はそう宣言されました。

 目の前でそう宣言したのは私の幼馴染のコーリー。

 親の言いつけでそのような立場にありましたけれど、普段から何かにつけて嫌味を言ってくるような方でしたので、そう宣言していただけるのは非常にありがたい事ですね。


「あの。それはどういう意味でしょう?」

「こんなこともわからないのか。ああ、やはり、俺はお前との婚約を破棄した方が良いらしいな」


 理解が出来ませんね。どうしてこの場でこのようなことを言うのか。それもありますが、もっと理解できないことが有ります。


「コーリー。貴方は自身の立場を理解してこの場に立っているのですか?」

「は? 何故そんなことを俺が気にしなければならないんだ?」


 目の前にコーリーの様子から本気でそんなことを言っていることを理解した。

 どうすればいいのでしょうか。


 正直なところ、コーリーの事は無視しても問題はないです。

 その理由はしっかりとあるのだから、面倒な事に一々首を突っ込んで行く必要は無いのです。


「おい! 無視をするな!」


 まあ、無視をしたところで相手から絡まれれば意味はないですよね。

 面倒ですねぇ。


「何か言えよ。婚約は破棄したくないとかさ!」

「何故そのような事を言わなければならないのでしょうか?」

「は?」

「そんなことを言う必要は私にはないのですが」

「そんな訳ないだろう? お前の実家と俺の実家の繋がりを作るために俺たちは婚約したんだ。それが無くなるのはお前の実家にとっていい事ではないのだろう?」


 コーリーの発言を聞いて、コーリーが自分の立場を一切把握していないことを理解しました。もしかしたら知らないふりをしているだけと思っていましたが、そうではないようですね。


「別に何の問題も起きませんよ」

「そんな訳ないだろう!」

「起きませんよ。どんなことが起きようとも、ね」

「は?」

「だって、貴方の実家、数日前にお取り潰しになっていますから」


 そう、コーリーはもう貴族ではないのです。

 

 私の発言を聞いて、コーリーは少し考えているような表情をしています。もしかして私の発言が嘘ではないかと疑っているのでしょうか?


「嘘だな」


 まさか本当に疑っていたとは。しかし、コーリーの実家が無くなったのは事実です。もしかするとそのことがコーリーにまで伝わっていないのかもしれません。


「嘘ではありませんよ。嘘だと思うなら、教師のどなたかに聞いてみればいいのではないでしょうか?」


 機器に行く前にその件のことがコーリーに伝わる可能性も高いですけれどね。


「嘘なのだから聞く必要は無いだろう。おそらくお前は俺の気を引きたくてそんなことを言っているのだろう?」


 信じられない解釈をされました。

 まさか、そんな風に考えるなんて、自分に都合のいい事しか考えられないのでしょうか。最近まで貴族だった者の考えだとは思えません。


「それはあり得ません。それに貴方の実家がお取り潰しになった段階で、私と貴方の婚約は破棄されています。いまさら婚約を破棄すると言われても、破棄する物は無いのですよ」

「いや……嘘だろ?」


 さすがに私が強気に言えば、嘘ではない可能性は考えられるようですね。ですがこれ以上、対応していても私に何の利はありませんので、さっさと終わりにしてしまいましょう。


「それと、コーリー」

「なんだよ」

「貴方の実家がお取り潰しになっているという事は、貴方は既に貴族ではありませんよね?」

「え?」

「貴族でない、貴方はここに居る資格はないと思うのですが、何時までここに居るのでしょうか」

「……俺は貴族だ」

「いいえ。貴方の所属する家が無くなった以上、貴方は貴族としての籍はありません。そのため、すでに貴族ではないのです」


 コーリーにそう言い放つと同時に夜会の給仕をしている者を呼び、コーリーを外に連れ出すように指示を出します。


「まて、俺は貴族だ! それにそこに居る、ノエル・ラテシア伯爵令嬢の婚約者だ!」


 給仕に呼ばれた護衛の者に腕を掴まれたコーリーは、そう言って私に助けを乞うような視線を向けてきました。

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