第46話 『泥中の蓮』と「大田康湖」誕生のきっかけの話

 今回の話に備えて昔の資料をあさったところ、『自分、みいつけた』を収録した中学時代の「読書・文芸クラブ」会誌が出てきた。ということは高校時代と同じく部活の掛け持ちをしていたようだ。


 高一の文化祭後、1986年11月に完成させたのがオリジナル短編作品『泥中の蓮でいちゅうのはす』。昭和20年、敗戦後の東京で暮らす横澤家の四人きょうだいが、長兄の理想について行けず崩壊していくという内容だ。

 本作については『カクヨム』にアップした際の「あとがき」でも述べたが、1985年に放送された星野知子主演のドラマ『サザエさん頑張る・主婦たちの戦後史』に出てきたヤミ買い拒否のエピソード、及び当時話題になっていた『エホバの証人』信者の輸血拒否問題が執筆のきっかけになっている。二つの事柄に共通するのは「親の言い分が間違っていても従わなくてはいけないのか」。アニメ版『パーマン』でバードマンに反抗するパーマン達の姿も私の脳裏にだぶっていた。


 『泥中の蓮』は顧問の国語教師に見ていただいた他、友人にも回覧した。特にSちゃんはタイトルの『でいちゅうのはす』という響きがいたく気に入ったようで、よくつぶやいていた。さらに絵もうまかったSちゃんには文芸誌用の挿絵も描いていただいた。自分のキャラクターがペンで描かれた立派なカットになるというのは初体験で、とてもありがたかった。


 本作には「まえがき」として食糧不足に振り回される人々を歌った、石田一松『のんき節』2番の歌詞が書かれていたが、『カクヨム』にアップする際にカットしている。自分がどこでこの歌詞を知ったのかは覚えていない。


 さて、『泥中の蓮』まで「太田静子おおたしずこ」だったペンネームを変えるきっかけとなったのは、姓名判断にはまったことだった。例によって姓名判断の本を立ち読みしていて、自分の本名や「太田静子」の画数が悪いことに気づき、新たなペンネームを考えようと決めたのだ。

大田おおた」の名字はすぐ決まったが、「康湖やすこ」は決めるのにかなり苦労した。小学校時代の友人の名前から「康子」を思いついたが、そのままでは画数が悪い。「こ」の読みはそのままで「湖」にしてみると、姓名判断では良い名前になった。さんずいは四画と解釈するのが姓名判断流だ。

 しかし、当時の人名では「○湖」という使い方はほとんど見られなかった。気になった私は、当時文芸部に誘っていた同学年の友人に相談した。彼女のペンネームから仮に「Tさん」と呼ばせてもらうが、名前に「湖」が入っていたのだ。Tさんは「康湖」という名前を後押ししてくれた。そのため、私はこれ以降の創作及びラジオネームでは基本「大田康湖」と名乗るようになった。


 Tさんとはペンネームの件とは別に、印象に残っているエピソードがある。

 超能力をテーマにした『ピラミッド・ペンダントの秘密』について、二次創作であることは伏せた上で、主人公が超能力を返す結末になることを話したところ、彼女は不満そうだった。何故そんなことを語ったのかというと、Tさんも超能力に興味を持っており、超能力の研究サークルに通っていると教えてくれたからだ。

 当時は少女マンガ『ぼくの地球を守って』が流行っており、文通欄で前世の戦士集めをする読者が問題視されていた。私はTさんの話をどこまで信じていいものか分からなかった。その後文芸部に入ったTさんとは高校時代だけで縁が切れてしまったが、ペンネームを変える決め手になったことには感謝している。


 次回は高校二年生時代の文芸部を取り上げる予定だ。


参考

カクヨム版『泥中の蓮(でいちゅうのはす)』

https://kakuyomu.jp/works/1177354054897977052


『「一蓮托生」シリーズの覚書』 第1話 横澤家の人々の名付けについて

https://kakuyomu.jp/works/16817139558068689169/episodes/16817139558068707456

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