一蓮托生シリーズの覚書

大田康湖

第1話 横澤家の人々の名付けについて

 本稿は、私の創作「『一蓮托生いちれんたくしょう』シリーズ」の設定まとめ、裏話を主に綴っていくエッセイだ。まずは「『一蓮托生』シリーズ」とは何かを解説したい。


 「一蓮托生」とは、『三省堂 新明解四字熟語辞典』によれば『よい行いをした者は極楽浄土に往生して、同じ蓮の花の上に身を託し生まれ変わること。転じて、事の善悪にかかわらず仲間として行動や運命をともにすること』とある。2022年に完成させた長編小説『一蓮托生(いちれんたくしょう)』に登場する横澤よこざわ家と、そこに繋がる人々の物語を一言で表す単語として使わせてもらうことにした。


コレクション「『一蓮托生』シリーズ」

https://kakuyomu.jp/users/ootayasuko/collections/16816452219598683101


 『一蓮托生』執筆のきっかけとなったのは私が1986年(昭和61年)に執筆した小説『泥中の蓮(でいちゅうのはす)』である。本作は、終戦直後の東京で暮らす横澤家の四人きょうだいが長兄、羊太郎ようたろうの無茶な理想について行けず崩壊していくという物語だ。

 なぜこのような内容になったのかは『泥中の蓮』のあとがきにも記したが、1985年のテレビドラマ『サザエさん頑張る・主婦たちの戦後史』に出てきたヤミ市での買い物を波平が拒否したが結局許すというエピソードを見た私が、(もしそのまま許さなかったらどうなったのか)という疑問を持ったためだ。現実にヤミ買いを拒否して餓死した人がいることも知っていた。


 横澤家の人々のモデルになったのは、私が二次創作を書くほどはまっていた藤子・F・不二雄『パーマン』のキャラクターだ。長男の羊太郎がバードマン、長女のかつらがパーマン3号こと星野スミレ、次男の勇二郎ゆうじろうがパーマン1号こと須羽すわミツ、四男の康史郎こうしろうがパーマン4号こと大山法善おおやまほうぜんである。もちろんそのままではないが、人物の性格、関係性には元ネタのキャラクターが反映されている。

 アニメではリーダーとして厳格に監督しようとするバードマンにパーマンたちが反抗したり、意外におっちょこちょいなバードマンが隙を突かれたパーマンたちにやりこめられるという話が時々あり、私はバードマンを子育てに苦労する父親の視点で同情しながら見ていた。


 横澤家の「横澤」という姓は、1946年の当用漢字制定前の物語であるため、旧字体を使う姓にしたかったという私のこだわりである。『ドラえもん』でドラミなどを演じていた「よこざわけい子(当時は「横沢恵子」)」さんの名字を使わせていただいた。


 四人きょうだいの名付けには別の裏話がある。当時我が家には、次弟の名付けの時に父親が使った名付け辞典があった。この辞典をペラペラとめくり、学校で使っていたコンパスの針を落としてランダムに選んだのだ。康史郎の名前に数字が入ってないのはこのためである。『泥中の蓮』本編では、理由付けとして勇二郎と双子として生まれた三男が早世したため、あえて名前に数字を付けなかったことにした。この三男の名前が「早三郎そうざぶろう」に決まったのは『一蓮托生』執筆時である。「早」の字に決めてから父親が「勇壮ゆうそう」にちなんで最初は「壮」の字にする予定だったというエピソードを思いついたが、本編で披露する機会はなかった。


 次回は横澤家の人々の家系図と設定を披露できればと思っている。

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