遥かな自由か君の隣か
白川津 中々
■
人待ちの間に買った本を読む。
一人の時間など、活字を追うなど、いつぶりだろうか。気弱な性分が似合わない責任感を背負わせ久しく、忘我の毎日を送りしばらく。気がつけばひととせ、ふたとせ。息つく間には酩酊に任せ惰眠を貪り、人としての生活を疎かにしていたこの頃、ようやく取れたこの一服。何か肩の荷が降り、気楽な気がする。
どうしようか。このまま何処か、遠くへ行こうか。電車に乗って本を開き、ページを捲り、また捲り、最後の一字を読み終えたところで降りてしまって、すっかりと自由を得たいなと、そんな事を考える。その先どうするのか、どうやって生きていくのか、そんな事を考えない生活に憧れ夢馳せるも、きっとできないと理解していて、代わりに本を閉じて深呼吸。また、肩が重くなった気がした。
逃げてしまおう。このままずっと変わらぬくらいなら、いっそ……
「お待たせ」
彼女が現れたのは逃避の直前だった。いつもより少しだけ着飾った、可愛らしい彼女が、目の前にいた。
「待ってないさ」
俺は本をバッグに仕舞い込むと、立ち上がって彼女の横に並んだ。電車に乗るのは、また今度。
遥かな自由か君の隣か 白川津 中々 @taka1212384
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます