遥かな自由か君の隣か

白川津 中々

 人待ちの間に買った本を読む。

 一人の時間など、活字を追うなど、いつぶりだろうか。気弱な性分が似合わない責任感を背負わせ久しく、忘我の毎日を送りしばらく。気がつけばひととせ、ふたとせ。息つく間には酩酊に任せ惰眠を貪り、人としての生活を疎かにしていたこの頃、ようやく取れたこの一服。何か肩の荷が降り、気楽な気がする。

 どうしようか。このまま何処か、遠くへ行こうか。電車に乗って本を開き、ページを捲り、また捲り、最後の一字を読み終えたところで降りてしまって、すっかりと自由を得たいなと、そんな事を考える。その先どうするのか、どうやって生きていくのか、そんな事を考えない生活に憧れ夢馳せるも、きっとできないと理解していて、代わりに本を閉じて深呼吸。また、肩が重くなった気がした。



 逃げてしまおう。このままずっと変わらぬくらいなら、いっそ……




「お待たせ」




 彼女が現れたのは逃避の直前だった。いつもより少しだけ着飾った、可愛らしい彼女が、目の前にいた。




「待ってないさ」




 俺は本をバッグに仕舞い込むと、立ち上がって彼女の横に並んだ。電車に乗るのは、また今度。

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遥かな自由か君の隣か 白川津 中々 @taka1212384

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