【残酷な運命なんてぶち破れ】天津陽高 神木船 波路道行
猫目少将
第一部 「扶桑出帆」編
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前章 五十年前の邂逅
春。好天。海風。
江戸から
母ちゃん待ってろ、
山道は突然行き止まりになった。
「わあ……」
ようやくそこまで辿り着くと、童は思わず溜息を漏らした。遥か下に、瀬戸内の海が広がっている。
子供心にも神聖なものに思えたのか、しばらく黙って見つめている。熱せられた海風が頬をなぶり、優しく髪をそよがせた。潮の匂いと草いきれ、土の香り。大きな海鳥が、頭の上を通り過ぎてゆく。
「美しかろう、童よ」
声がした。
振り返ると、風変わりな白い装束をまとった女が、背後に立っていた。髪は長く、見慣れぬ形に結い上げ、花の枝で留めている。
「ねえちゃん、誰」
それには答えず、細く伸びた指で海を差した。
「あの海を見よ」
「あの海から生まれ、あの海に還ってゆくのだ、全てのものは」
「……還って、ゆく」
不思議そうな顔で見上げられると、女が瞳を細めた。
「お前の名は」
「
「そうか。名を変えたばかりか。幾つになる」
「四つだっ」
指を四本立てて突き出す。と、そのとき、
「陽高よ」
前に回ると、女は童の顔の前に腰を落とした。瞳を深く覗き込んでいる。
「なんだ、ねえちゃん」
「今の鐘で、お前の
童は鼻水を拭った。
「ねえちゃんもなっ」
「わしか。……そうだな、わしも強く生きるとするか」
愉快そうに笑う。
「じゃあな、ねえちゃん。そろそろ戻らないと、母ちゃんがうるさいから」
女を残して、童は駆け出した。
「まあ待て、陽高よ。茸を採るのではなかったかな。……ほれ」
いつの間にやら手にしていた茸を見せる。
「忘れちゃった。有難う、ねえちゃん」
「陽高よ、いつかまた会おう」
「うん、またねっ」
もらった茸を握り締めると手を振って、菜の花咲き乱れる山道を、陽高は
★次話から新章、50年後。おっさんとなった陽高が女奴隷と共に、とてつもないクエストに挑む!
■注(これら用語の意味がわからなくとも、雰囲気で楽しく読めるよう配慮しています。注は飛ばして頂いても構いません)
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