専門医院
結騎 了
#365日ショートショート 043
「次の方、どうぞ」
医者が呼びかけると、簡易カーテンの向こうから女が現れた。屈むようにそれをくぐり抜ける。
「先生、すみません。また来てしまいました」
「なあに、気にすることはありません。あなたを診られるのは私くらいのものです。さて、今日はどうしましたか」
女は回転式の質素な椅子に座ると、肩に手をやりながら答えた。
「いつもと同じです。やっぱり、肩こりがひどくて」
「そうですか、ではこちらに背中を見せて。少し触ってみましょう」
腕まくりをして、医者は両手を伸ばした。女の白い肩に触れながら、骨の位置、肉の張りを確かめていく。
「ごめんなさい、もう少し前を向けますか。これだと手元が暗いので」
「ああ、すみません先生。つい気になってしまって」
簡単な触診のあと、医者はデスクに向き直り、カルテにメモを残しながら語った。
「やはり肩こりがひどいようですね。知り合いに、あなたのような方でも問題のない整骨院があります。そちらへの紹介状を用意しておきましょう。ほら、住所はこちらです。この場所はご存知ですか」
カルテを書き上げ、顔を上げる。手元の地図を見せ場所を示すと、女は首を縦に振った。
「先生、いつも本当にありがとうございます」
医者は微笑んで答えた。
「いえ、気にしないでください。妖怪専門の内科なんて、この辺りじゃもう、うちくらいのものですから。それにしても、ろくろ首さんもうちに通うようになって長いですね。こちらこそ、いつもありがとうございます」
専門医院 結騎 了 @slinky_dog_s11
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