第50話 13時59分

2049年12月22日水曜日 13時59分 東京都千代田区 帝国ホテル 1001号室


「防衛省でしょ?彼、元気かな、ミスターヤジマ」


 突飛な質問が飛んでくる。在籍は先ほどケリーが確認していたようだが、それだけでは足らなかったようだ。


「矢島なら既に異動していて、現在は文部科学省です。大臣から大いに嫌われてしまいまして。昔からそういう人事があるんですよ、日本の悪い風潮です」

「……ふーん。彼を知っているのね。僕も世話になったことがあるよ」

「そうですか。矢島さんと直接仕事はしてませんが、ホームパーティに参加したことがあります。娘さん、琴音ちゃんだったかな、すごく懐いてくださってました」


 自然と話し出した里井に対して、ケリーもクロスも目線を送っていた。姿は見えないが、無線越しのメンバーも驚いているに違いない。隣の飯田も同様だ。リーカーだけは、表情ひとつ変えずに里井に向き合っている。


「……君たち、役人でしょ。こうしてリスク抱えて単独行動をとって、爆薬を抑えたとして、それで報われるのかな、この国では」

「……いいえ、言葉を返すようですが、あなたは客を金以外で客を選ばないでしょう。過激なグループに渡って、自国への要らぬ攻撃を受けたくないだけです。あなた方はただのビジネスマンだ。売った爆薬がどうなろうと、知る由も興味もない。それも理解している上で、あなたに会いにきています。の判断であればそれなりの処分は覚悟してますけど、私たちにとっては人命が優先です」

「なかなかご立派な覚悟だね。だけど役人2名に、相応の金は用意できるの」

「経産省のマクスウェル・片岡、彼女が金庫番として私たちと手を組んでます。日本円で5億までならキャッシュで用意します。必要なら、今電話しても構いません」


 それを聞いて、リーカーの表情が少し変わる。少し間が空いて、口を開く。


「ローラン。経産省に電話して。今日、ウィークデーでしょ。直接片岡に確認しよう」


 ローランは言われた通りに携帯電話を取り出す。PCの画面を見ながらスピーカーをオンにして電話を掛けた。


「RFAのケリーです。出資の話で、マクスウェル・カタオカと話がしたいのですが」

『……私が片岡ですが』


 電話口の聞き馴染みのある声が無線越しに入ってくる。状況の読めない飯田も平然を装う。


「……そうですか。防衛省のミスターイサカ、ミスターアベをご存じで?」

『ええ。……その件は、ここだと会話しにくいのですが。場所を移っても?』

「どうぞ」


 少し間が空いて、電話口の声が再度聞こえてくる。


『密輸の件ですね。本当に、ミスターリーカーの所持品だったのですか。半信半疑でしたが』

「……商談と言って、突然押しかけられてましてね」

『それは失礼を……しかし、我が国に逼迫した危険が迫っていることも事実。こちらも猶予がないのです』

「日本円で5億をキャッシュと、ミスターイサカは言っていますが。用意に、どのくらい掛かりますか?」

『私が出金管理を行ってます。交渉用の現金をプールしてますので、そこから引き出すのは造作もありません。3時間いただければ、指定口座に振り込みができます』


 ケリーは電話の保留に切り替える。


「……ローラン。今日はこの後どんな予定だったかな」

「本日は、ご友人との食事会では」

「そうだった、そうだった。キャンセルしておいてもらえるかな。それ」

「はい、わかりました」


 明らかに空気が変わった。里井と飯田は表情を変えず、平静を装う。


「荷物の元まで案内してあげようか・・・ローラン、一緒にいける?」

「ええ。倉庫にこの二人を?」

「そう。私も一緒に行く。見てなかったからね」


 ダボスは立ち上がる。


「よければ私たちの車に同乗してよ。その方が早い」


 立ち上がりドアに向かう。クロスは座ったまま孝太郎を見ていた。彼女は行かないようだ。見惚れる姿だが、里井は目線をすぐに変えて、振り向かずに立ち上がる。

 ケリーに促されるように、4名と、ボディーガードの2名で部屋を出るのだった。

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S : I : I(シー) ~ He's "No Name" Ash @Jack-A

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