情熱パエリヤ

Ricako

情熱パエリヤ

 ― カップ麺 ―

 カタカタカタ、カタカタカタカタ、

 カチャカチャッ

 カタカタカタ、カタカタカタカタカタカタ・・・


 ピピッ、ピピッ、ピピッ・・・

「えっ!もう5時ぃ~、やだ~今日もお昼食べるの忘れちゃったよ~」

「あ~もう今日は無理、もうこれ以上は、やってらんない。何か食べるか~」


 空腹も感じないなんてさすがにヤバいよね今の私。リモートワークになってからというもの、私の生活は一変した。最初は、もうあの満員電車に乗らなくてもいいし、デザイナーらしく常に外見を気にする必要もなくなって、いいじゃんリモートワーク最高!!とかって思ってた私だけど、さすがに今のこの生活は、無いよね。


 そう言えば、最後に美容院に行ったのっていつだっけ?パジャマと部屋着が兼用とかやっぱダメでしょ。

 美味しい物を食することだけが私の生活を潤し、そして、それが唯一の楽しみだった私が空腹も感じないとか、コンビニ弁当とカップ麺で生命維持しているとか、もう絶対にヤバいって!!って、分かってはいるんだけど、リモートワークになってからというもの、この激務は一体何なのよ!!


 インテリアデザインを学んだあと、それなりに大手の住宅メーカーに運よく就職して、気付いたらもう、今年35歳の誕生日を迎える私。

 クライアントの希望に合わせて住宅の内装デザインをするのが、私の主な仕事。リモートワーク以前から忙しい部署ではあったんだけど、それにしても、それにしてもだよ、リモートワークになってから、めちゃめちゃ激務こなしてるんですけど。

 お家で仕事って、気楽でいいんだけど、気付いたらほぼ24時間稼働してない?って思うくらいパソコンに向かってる気がする。

 だから、一日3回、アラームを設定してるのに。

 8時、仕事スタート。

 12時、1時間昼休み。

 17時、仕事終了。

 アラーム完全無視のほぼ24時間稼働って・・・・

 リモートワーク、全然最高じゃないし。


 ま、いいや、とりあえず今日は、こないだ買ってきたあの例のカップ麺、食べてみよう!興味と期待が半分、恐怖と懐疑心半分で買ってしまったヤツ。


 ジャジャーン!!

『本場スペイン!情熱スパイシー パエリヤ風味 焼きそば!!』


 べリベリッと蓋を開けてみると、中にはまぁ普通の乾麺、乾燥シーフードとあとがけソースの小袋が入っていた。乾燥シーフードの袋を開けて乾麺の上にパラパラッとした後、お湯をかけて3分待ち、お湯を捨てた後、この謎のあとがけソースの袋を開けてみると、中からドロッとした赤い液体のソースが出てきた。


 うん?ちょっと待って、ソース『赤』なの?

 パエリヤって『黄色』じゃない?

 ま、いいや混ぜてみよう。


 すると、温まった麺の湯気とソースがからまって少し酸味のある香りがツンと鼻に届いた。


 うん?香りは、『パエリヤ』っていうか、なんか『トマト』?

 ま、いいや、とりあえず食べてみるか。


「うわぁ!!ナニコレ、辛っ!!」

 ちょっと待って、ちょっと待って、ちょっと待って~

 辛すぎるよ!!それにこれ、パエリヤ風味どころか、ただのトマト味じゃん。


 さっき、ビリっと剥がしたカップ麺の蓋を見直してみたら、『情熱スパイシー』って書いてあった。この辛さは、『情熱スパイシー』なワケね。っていうか、パエリヤって辛い食べ物じゃないし!!

 もう、このパエリヤ風味焼きそば、クレーム物だね。あとで、お客様相談口にクレーム言わないと、ちょっと気が収まらないくらい期待を裏切ったわねこのカップ麺!!


 とかって、こみあがる悔しさと戦っていたら、急に視界がぼやけてきて、気付いたら、目から大粒の涙がボロボロこぼれ落ちていた。

 この涙は、焼きそばが激辛だったからじゃなくて、パエリヤ風味なのにトマト味だったからでもなく、なんかもっと私の内側から沸々と湧き上がってくるモヤモヤしたモノのせいだって、その時、気付かされてしまったの。


 もうこれ以上食べる気のしない焼きそばをテーブルに置いたまま、ベランダに出てみた。ベランダからは、遠くに、すごーく遠くにだけど海が見える。30歳の誕生日に、遠くに海が見えるこの物件が気に入って購入した。一人暮らしには、ちょっと広めのマンション。

 漠然と、いつかは結婚するものだと思って貯めていた貯金だったけど、私は、自分のマイホームを購入してしまった。


 ココは、私のお城。そして、このお城から遠くに見える海は、私にとっては、地中海なの。


 ― パエリヤ ―

 あれからもう12年も経っちゃったのか~メルセーとヘスースは、今どうしているんだろう?「はぁ~、メルセーが作ったパエリヤ、もう一度食べたいな~」


 そう、今からもう12年も前のこと。

 運よく就職が早々に決まった私は、社会人になる前にスペイン建築やデザインをどうしても見ておきたくて、2か月のスペイン語留学に勇気を出して行ったのよね~

 選んだ場所は、地中海に面した太陽の日差しが、いつも明るくて眩しくて、そして、すごく美味しい街『バレンシア』

 バレンシアは、スペインではお米の産地で、パエリヤの聖地ともいえる街。でも実は、バレンシアがスペインの米どころで、パエリヤが名物なんて、行くまで全く知らなかったのよね私ったら。

 ただ単に、バレンシアの芸術科学都市に立ち並ぶ斬新な建築物群とバルセロナでガウディの建築物を目の当たりにしたかっただけ。

 スペインで目の当たりにしたスペイン建築とデザインにインスパイアーされたのは言うまでもなかったけど、でも、まさか胃袋までインスパイアーされちゃうとは思わなかった。


 あの時、ステイ先だったのが、メルセーおばさんのお家だった。

 メルセーは、旦那さんを早くに亡くし、あの当時12歳のヘスースという男の子を育てるシングルマザーだった。自宅の空いている部屋を留学生に提供し、留学生のお世話をする仕事をしながら生計を立てていた。

 メルセーは、ちょっと小太りで、いつも優しく微笑みながら接してくれる料理がとっても上手なおばさんだった。スペイン語なんて第2外国語でちょっとかじっただけの私は、まともな会話も全くできなかったけれど、私のことをまるで自分の娘みたいと言いながらいつも温かく接してくれた。


 メルセーの家でホームステイが出来て、ホントに、私は運が良かった。だって、メルセーが作るご飯は、毎日美味しいし、たまに週末に作ってくれるパエリヤは、もう本当に『今、もし死んでも悔いはない』と、思えるほど美味しかったの!!

 そう言えばある時、メルセーのパエリヤが、あまりにも美味しいから「私、もう今死ねる」って言ったら、「何言ってるの、カナエ!!バカなこと言っちゃダメ。もう、どうして家にやってくる日本人の女の子は、皆こんなに細い体してるのよ!!もっとちゃんと食べて、ちゃんと生きなきゃダメよ!!さぁ、もっと食べて」って、冗談交じりに怒られたこともあったな~


 「ちゃんと食べて、ちゃんと生きるかぁ~」生きていく上で、基本的なことだよね。私、ちゃんと出来てなかったかも、ここ最近。


 それにしても、私をこてんぱんに裏切ってくれたこのパエリヤ風味焼きそばのせいで、まさか12年前の記憶が突然、私を襲ってくるとはね。

 そうとう疲れてるのよ私。美味しい物食べたら、また元気になれるはず!!だって、メルセーが、週末集まる家族のために作ってくれたパエリヤは、いつも私をハッピーにしてくれたもん。


 そうだ、確か、スペイン留学が終わる日、メルセーが私にプレゼントしてくれたパエリヤパンが、どこかにしまってあったと思う!!メルセー直伝のパエリヤレシピを書いた手帳も、確か、本棚にあったはず!!

 決めた!明日の土曜日は、仕事しない!!


 キッチンの戸棚を開けて探してみると、まだ一度も使っていないテカテカに黒光りした一人用のパエリヤパンが奥にしまってあった。

「あ~よかった、あった~。ずっと忘れててごめんよ~」

 次は、メルセーのレシピも探さなきゃ!!


 ― 買い物日和 ―

 翌朝、窓から差し込む日差しで目が覚めた。

「う~ん、久々になんか目覚めがいいな~」お天気もなんだか『買い物日和』って感じだし。

 昨日、急に思い立って、今日のお昼は、張り切ってお一人様パエリヤを作るぞ!!って、決めたんだよね。メルセー直伝のパエリヤレシピも見つけたし、さて、さっさと支度して買い出しに行くぞー!!


 なんだろう~なんか、すっごくウキウキしてしかたない!!

 メルセーが作ってくれたみたいな、あの美味しいパエリヤの味を私が再現できるのか?ちょっと不安は、あるんだよね。でも、私、最近はただ忙しかっただけで、もともと料理は、得意だし。大丈夫!絶対に『絶品パエリヤ』作ってみせる!


 このスーパー、確か最近リニューアルして、「鮮魚コーナーが充実してていいわよ~」って、ご近所さんに聞いたんだよね。パエリヤだし、鮮魚コーナーから見てみるか~と、メルセーのレシピを取り出して材料チェックをしてみた。


 わ~すごーい!!ホント、ご近所さんの言ってたとおり、ここの鮮魚コーナー、充実してるし、すごくお魚も新鮮だわ~なんか、すっごく美味しいパエリヤ出来ちゃうんじゃない!?


 そういえば、パエリヤの材料の買い出しに市場へ行くからって、メルセーについて行ったことあったな~


「スペインでは、パエリヤは、すっごく簡単な家庭料理よ~でもね、簡単だけど、美味しいパエリヤを作ろうと思ったら、材料選びは、大切なのよ」って、メルセー言ってた。


 市場では、お肉はお肉屋さんで、魚は魚屋さんで、野菜や果物は八百屋さんで、それぞれの売り場で買うんだよね。全てが揃うスーパーと違って、市場での買い物って順番待ったり、魚屋さんでは、さばいてもらったり、お肉屋さんでも欲しいお肉の部位を選んで、どういう風に切ってもらうか注文したり、とにかく時間かかるし、効率も悪いけど、でも、すっごく活気があって、メルセーなんか常連さんだからって、店員さんと冗談言い合ったりして楽しそうに買い物してたの思い出すな~


 そうそう、魚屋さんで「この子は、今うちにいるカナエよ~」っていきなり紹介されて、まだ片言のスペイン語しか話せない私は、「オラ~(こんにちわ~)」しか言えなくて。なんかすごく恥ずかしかったけど、日本からわざわざ来てくれたお客さんだからって、あの時、ムール貝をサービスしてくれたりして。すごく楽しかったな~市場でのお買い物。


 スペインでは、ムール貝って、たしか激安だったけど、ここでは手に入らなそう。あ、でもカキで代用できるかな?冷凍のシーフードミックスを買ったら、手間は省けるけど、でも今日は、ちょっと気合入れて作りたいし、エビもお頭付きのブラックタイガーにしちゃうか~次に、スープ用の魚の頭と骨は、どうしよかな?お、鯛のあらが売ってる。これでいっか。


 次に、調味料。パプリカは売ってるけど、でもコロランテは、さすがに無いよね~

 メルセーの作るパエリヤもすっごく真黄色で、この色ってどうやって出すんだろう?って思ってたんだよね。そしたらメルセーが、「コロランテを入れるのよ」って、オレンジ色の粉が入った小瓶をパッパッと振りかけたら、ぱぁ~っと、いっきに『パエリヤイエロー』に変わるの。「サフラン入れないの?」って聞いたら「サフランは、高いからコロランテを入れて黄色くするのよ」って言ってたな~


 スペインで食べたパエリヤは、どこで食べてもあのすごいインパクトのある『イエロー』で、それも着色料で真黄色にしているって知った時は、なんだかちょっとショックだったけど、「食用だから大丈夫よ」って言われてからは、あの『イエロー』じゃなきゃパエリヤ食べた気がしなかったりもして。

 やっぱり、パエリヤって『イエロー』よ。ま、でも今回は手に入らないし、コロランテ無しで作るしかないかな~


 ― 情熱のお一人様パエリヤに挑戦 ―

 ふぅ~、やっと家に着いた~

 さて、それじゃあ、まずは、シーフードスープから作らなきゃね。

 大きめの鍋に、今買ってきた鯛のあらとエビの頭をギュッと、つぶしながら入れた。あとは、野菜っと。皮をむいた人参を丸ごと、玉ねぎも半分にざっくり切った塊を入れて、あと、ローリエの葉っぱも一枚入れて、具がひたひたにかぶるぐらいまで水を入れて、鍋を火にかけた。


 さて、この間に他の具を切らなきゃ~

 トントントン、トントントン、トントントントン・・・・

 と、リズミカルに、玉ねぎをみじん切りにしていたら、目がしみてきた。

 玉ねぎ切りながら涙。あ~なんか私、料理作ってる~って感じ。

 台所に立って、ちゃんとした料理を作ること自体、すごく久しぶりだわ~なんだろ?『ちゃんと食べて、ちゃんと生きる』を実践してる感じがして、俄然やる気が出てきちゃった。やる気もそうなんだけど、このお一人様パエリヤへの挑戦、私にとってはやっぱり、『情熱』も込めないと、太刀打ちできない課題だわ!!って思ってたら、なんか顔がニヤけてきた。


 そう、12年前の私は、スペインのことなんてほとんど知らないまま、スペインの地を踏んでしまったのよね。

 誰もが思ってるように、『スペインっていえば、情熱の国でしょ』ぐらいの知識。

「日本人って、毎日、天ぷらと寿司食べてるんでしょっ」て外国人に言われるのと同レベルだった私が、やらかしてしまった失敗談がよみがえってきて、思わずニヤニヤしてしまった。


 ホームステイ先でのある日曜日、メルセーのパエリヤ作りを覚えようと思って、メルセーが台所に立っている横で、お手伝いをしていた私。

 手際良く、チャッチャッと手を動かしながら材料の下ごしらえをしているメルセーに向かって、「美味しいパエリヤを作るには、やっぱりパッション(情熱)が必要なんでしょ?」って、つたないスペイン語で聞いてみた。すると、メルセーは突然、大きな声を上げて笑い出し、「カナエは、面白いこと言うわね~美味しいパエリヤを作るのにパッションは、必要ないわよ。ムーチョカリーニョよ!」って、私の肩をギュッとして、頬にチュッとキスしてくれた。


 ムーチョカリーニョ?え、何それ?どんなスパイス?カラムーチョ的な?

 その時は、メルセーが言った意味が分からなくて、後で辞書を開いて意味を調べてみた。カリーニョは、スパイスの名前じゃなくて、『愛情』だった。


 メルセーは、料理がとっても上手だったけれど、でも、いつも食べてくれる人には『美味しい』想いをしてもらいたいだけ。ただ、それだけのためにいつもムーチョカリーニョをこめて作ってた。

 メルセーのパエリヤが、特別美味しかったのは、料理上手ってだけじゃなくて、いつも『たくさんの愛情』が込められていたから。


 懐かしい思い出に、ちょっと目頭が熱くなってきた。初めて使うパエリヤパンで炒める玉ねぎとニンニクのみじん切りが、目にしみるのもあるけど、頬を伝い始める涙は、メルセーの『愛情』を思い出しちゃったからかも。


 さ、泣いてる場合じゃない。次に、トマトのみじん切り、イカとエビも加えて炒めたらもう、部屋中がほぼパエリヤの香りで、あぁ~~~もう我慢できな~い!!

 思わず、ポンッと軽い音を立てて、白ワインのコルクを抜いてしまった。


 ちょっとほろ酔いだけど、ここで手元を狂わすわけにはいかないのよ~これからが、美味しいパエリヤを作る最終段階だから。

 パエリヤパンの中には、炒めた具に程よく混ざったお米が、今か今かとシーフードスープが注がれるのを、パチパチ音を立てながら待ってる。


 さ、注ぐわよ~「ジュワジュワジュワ~」っと、気持ちのいい音を立てながらシーフードスープの香りが湯気と一緒にたちこめる。


「う~ん、いい香り~」


 お米1カップに対してスープの分量は2カップ。

 これが、パエリヤを作るときの大事な鉄則らしい。お米が2カップなら、スープは4カップ。日本でお米を炊く時とは、違う水分量なのよね。だからなのか、メルセーのレシピにも水分量のところだけは赤字で書いてあるわ。うん、一応、守ったよこのルール。

 さ、あとはスープが注がれたパエリヤパンにムール貝の代わりに買ったカキとアサリも加えて、あとはもう運に頼るしかないわね。


 「フツフツ、フツフツ、ポコポコ、ポコポコ」っと、スープが音を立てながら、お米を煮込んでるパエリヤパンから目が離せない。スープがたっぷり残ちゃって、雑炊になったら嫌だし、かといって早めにスープが蒸発しちゃって、お米に芯が残るのも嫌だ。火加減、むずかしい~

 でも、パエリヤパンから立ち昇る香りが、もうすでに美味しすぎて、2杯目のワインをグラスに注いでしまう私。こんだけいい香りなんだから、絶対に美味しいはず!!早く食べた~い!!


 2杯目のワインを飲み干す頃、パエリヤパンのお米もなんかいい感じになってきたので火を止め、メルセーがやってたみたいにパエリヤパンの上に布のフキンをかぶせた。あとは、10分~15分位蒸らすだけ。


 お腹もペコペコだし、10分後にアラームをセットした。15分蒸らして、お米が柔らかすぎても嫌だしね。お腹がペコペコの時の10分って60分待たされる感じ。


 気を紛らわすために、この10分で、普段はやらないテーブルセッティングをすることにした。お気に入りのランチョンマットに、普段は使わないナイフとフォークと紙ナプキンを置いてみた。

 一人暮らしの食事って、いつもは、ついつい手抜きしてしまうんだけど、なんか今日は、全身全霊、気合と情熱で、お一人様パエリヤに挑んだのよね。だから、なんとなく儀式ってワケじゃないけど、テーブルセッティングもちゃんとしたかった。


 ― 私の情熱パエリヤ ―

 ピピッ、ピピッ、ピピッ・・・

 お、10分経ったぞ~いよいよご対面、人生初の『情熱』無くしては、決して作れなかった私のパエリヤ。そして、勇気を出して、パエリヤパンにかかったフキンを両手でそっと開けてみると、シーフードの香りが湯気と一緒になって私の顔にフワッと来た。


「う~ん、いいにお~い」


 コロランテを入れていないから、『イエロー』ではないけれど、でも、ちゃんと『パエリヤ』になってる~なってる~初めて作るパエリヤにしては、上出来すぎない!!


 スペインで買った、オリーブの木で出来た木べらでパエリヤをすくってみると、パエリヤパンの底には、ちゃんとおこげの部分も出来てて、さらに感激!!

 だって、私の水加減と火加減、間違ってなかった!!

 パエリヤのおこげって、最高に美味しいのよ!!

 メルセーのお家でも、おこげ争奪戦が繰り広げられてたしね。私も大人げないと思ったけど、いつもメルセーの息子のヘスースとおこげ取り合いしたし。


 さ、早速、食べるわよ~

 フォークでお米をすくって、まずは一口、味見をしてみた。

「きゃ~、なにこれ~完璧!!」お米の堅さも、塩加減も、そして魚介の出汁もすっごくいい感じ~

 人生初のパエリヤに挑戦だったけど、まさかこんなに上手く出来上がるとは、もう本当に想定外。

 材料をケチらず、下ごしらえを面倒くさがらず、メルセーの言いつけをちゃんと守って作ったからできた逸品ね。

 でも、どうして今まで挑戦しなかったんだろう?意外に簡単に、それもかなり美味しく出来ちゃったし。


 気づいたら2杯目をペロリと食べ終わってた。白ワインも進んでしまって、後片付けは、ちょっと今は、無理。今日は、スペイン人みたいにシエスタ(お昼寝)しちゃおう~


 ― 夢 ―

 ピピッ、ピピッ、ピピッ・・・

「うわぁ!!ビックリした~、えっ、もう5時?」仕事終了の17時のアラームで、シエスタから目が覚めた。

「うわぁ~、めっちゃ、スペインタイム~」5時にシエスタから目が覚めるとか、スペイン人かよ私。


「うわぁ~片付けしなきゃ~」でも、なんかちょっと、いい夢見てたな~


 カウンターしかない小さなお店。カウンター越しから見えるオープンキッチンの中で、私、パエリヤを作ってた。

 あのお店の内装、なんか見覚えあるんだよね。あれって、たしか、新入社員対象に社内で毎年ある内装デザインのコンテストで、私がプレゼンしたデザインとすごく似てる。

 あの時はまだ、スペインのデザインにインスパイアーされたてで、私の感性もガウディ並みの斬新さがあったのよね。って、言ったら言い過ぎだけど。

 確か、あの時のコンセプトは、「私の街の小さなレストラン」だった。


 自分が小さなお店を持つならこうしたいって思いながら、漆喰の白壁にカラフルなタイルを埋め込んで、窓枠はやさしい地中海ブルー、その窓からは、いつも明るい日差しが差し込んでいる。

 地中海沿岸にあるような、坂の多い白い街の中に、地元の人に愛されながら、ひっそりとたたずむ小さなバル。そんなイメージでデザインしたことを思い出した。


 私、もうそろそろ独立しようかな~小さなお店やレストランの内装デザインをするの元々好きだったし。

 クライアントさんと直接お話しながら、誰かの夢を現実化するお手伝いをするって、ステキかも。それに、何より自分のペースで仕事ができるのは、もっと素敵!!


 メルセー、ありがとう!!あなたのレシピのおかげで、ちゃんと食べて、ちゃんと生きていくこと、また思い出せたよ。メルセーのパエリヤレシピ、最高でした!!


 そんなことを思いながら、レシピ手帳のページをパラパラめくってみると、『スパニッシュオムレツ』のレシピも見つけた。


 そうそう、メルセーが作るスパニッシュオムレツも満月みたいにまん丸で、最高に美味しかった~


 よ~し、次は、スパニッシュオムレツに挑戦するぞ~!!


 FIN




























































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情熱パエリヤ Ricako @nishino-ricako

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