【朗読あり】風味を感じなくなったのでコロナかな?と思って病院に行った話
武藤勇城
本編
第1話
2021年3月1日
私は体調の異変を感じた。
今日は気温が高いが、ここ数日は冷え込む日が続き、そのせいで風邪をひいたのかと思った。
熱はそれほど高くはない。
微熱である。
しかし、少々の悪寒、それに鼻水。
ただの風邪ならば、温かくして風邪薬を飲めば治るだろう。
自慢じゃないが、私はこの5年ぐらい病院に行った事がない。
体調管理には注意しているからだ。
それに、ひき始めの風邪には、いつもの自己療法がある。
子供の頃から喉が弱かった私。
風邪はいつも喉からくる。
扁桃腺が腫れ、声がしゃがれ、咳などが出始めるのが初期症状である。
二十歳を過ぎた頃から、そんな自分の弱点に気付いた私は、風邪かなと思ったら即座に『のどぬーる』を使う。
喉を殺菌消毒する市販の薬である。
これだけだが、成人して以降、風邪で寝込んだ覚えはない。
そんな私だったが、今回ばかりは勝手が違った。
数日前から喉の殺菌をしているが、一向に体調が戻らない。
それどころか悪寒が続き、夜、温かくしてもなかなか寝付けない日々を送っていた。
そしてつい昨日、私に決定的な異変が起きてしまった。
台所に立ち、いつものように晩御飯の準備をする。
寒かったので、温かいご飯と濃いめのお味噌汁を作った。
お椀一杯分のお湯を沸かし、塩を少々。
沸騰したら溶き卵を入れ、鍋底にくっ付かないよう少しかき混ぜる。
そこにダシ入りの味噌を溶き、刻みネギを加えて完成だ。
いつもの分量で作ったので味見は不要。
そのまま器によそって、いざ実食!
しかし、口に入れると味がしなかった。
薄いのではない。
味噌の風味を全く感じないのだ。
塩味はある。
それだけだ。
(おかしいぞ)
塩と七味などを足して昨晩は誤魔化したが、その味覚異常は朝になっても戻らなかった。
新型コロナウィルス。
ニュースでも連日のように報じられている。
寒さの厳しくなる1月、2月には、日本でも感染者が連日1000人に迫る勢いで、私の住む地域でも役所のホームページで感染状況の最新情報が出ていた。
近所でも毎日のように感染者が出ている。
そのコロナに罹るとどうなるか、というのも、報道番組でよく見る。
代表的な症例として、味覚がなくなる、というものがあるらしい。
(まさか、コロナか・・・・?)
病院など全く行っていなかった私が、このような経緯で5年ぶりの病院を訪れた。
気温は18度あるが5枚ほど着込んで。
新しいマスクを着けて。
入り口で手の消毒も忘れない。
待合室でもなるべく人との距離をとった。
最も、平日の昼間である。
病院はだいぶ空いていた。
待ち時間も短かった。
すぐに名前を呼ばれ、個室に入る。
「今日はどうしました?」
「ええ、風邪かなと思ったのですが、どうもおかしいので」
「症状は?」
「微熱と悪寒、それに食べ物の味がおかしくて」
「ああ、なるほど、では少し検査しましょう。まずは体温を」
脇の下で計るタイプの、ごく一般的な体温計であった。
「37.1度ですね。では口を開けて下さい」
大きく口を開けて見せる。
ライトとヘラのようなもので口の中を見た後、麺棒のようなもので舌を擦られた。
「すぐ検査をします。少しお待ちください」
待合室に戻り、置いてあったマンガを読みながら、数十分ほど待った。
漫画に没頭し、2冊か3冊ほど読破しただろうか。
不意に名前を呼ばれたので、慌てて本を棚に戻すと、病室へ向かう。
「どうですか、何か分かりましたか?」
「今、この時期に流行っているアレですね」
やっぱりか!
これは大変な事になった。
仕事は今日休むと連絡を入れたが、暫く行けなくなるかも知れない。
有給は大丈夫だろうか。
まさか解雇なんて事にはならないだろうか・・・・。
不安がよぎった。
「マスクって、やっぱり効果あります?」
「ん、ああ、もちろんです!」
「した方がいい、しないとダメですかね?」
「そうですね、するべきですね」
「ですよね・・・・この冬もずっとマスクしていたんですけど、結局こうなっちゃったので、あまり意味ないのかなって」
「いやいや、マスクによる予防効果は大きいですよ」
「そうですか」
「きちんとマスクを着用するのは大前提ですが。鼻が出ていたり、上や下にスキマが出来てしまうような着用方法では意味がありません」
そう言って、先生はマスクの正しい着用方法もレクチャーしてくれた。
「あの、仕事は休まないとダメですかね?」
「え?」
「えっ?」
仕事は行けないだろうと思っていたので、不思議そうな顔の先生を見て、逆に私の方が混乱した。
「仕事、行ってもいいんですか?」
「お仕事は外でやるものですか?」
「いいえ、デスクワークです。外に出るのはお昼の休憩で買い物に行くぐらいで、あとはずっと室内ですね」
「お部屋の換気はしっかりされています?」
「最近は、はい、特に社内でも気にしていますし・・・・」
「そうですか、酷い方ですと休まれる方もいらっしゃいますが、基本はそのまま皆さん仕事はされていますよ」
「えっ!?」
「えっ?」
コロナに感染しても、みんな普通に仕事してるのか!
って、マジで?
報道ではそんな話は聞かないし、逆にコロナ専用の施設に隔離されたり、自宅で買い物にも出るなって言われている気がするのだが・・・・。
「外の仕事や、山で伐採作業なんかをやるのでなければ、特に問題ないでしょう」
「え!?」
「え?」
山で伐採って・・・・何を言っているのだろう?
「いや、デスクワークですよ」
「だから問題は無いですよ」
「三密とか・・・・」
「え?」
「えっ?」
コロナは三密を避けろって、報道でもよくやっているのだが・・・・。
「とにかく、お薬を出しておきますので、毎日朝晩2回で、とりあえず2週間分出しておきますね」
「えぇっ!?」
「え?」
コロナの治療薬、もう出来てるのか!?
「薬って・・・・」
「お薬です。処方薬」
「あるのか!」
思わず素で叫んでしまった。
日本、すげえな!
世界ではワクチンが出来たの出来ないのって言ってるぐらいだと思っていたのに、もう治療薬まで!
しかもこんな小さな病院でも出してくれるとは!
その時、先生が何かを察した。
「あ~もしかして」
「?」
「コロナ」
「私コロナ?」
「あ~やっぱり」
先生は笑ってこう言った。
「花粉症です」
ただの花粉症だった!
【朗読あり】風味を感じなくなったのでコロナかな?と思って病院に行った話 武藤勇城 @k-d-k-w-yoro
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます