第44話 旅立ちと帰路と書物と?
大がかりの結界が解除されて、船がようやく動き始めるという情報を入手。俺もそろそろ頃合いだろうと、始発の船に乗り込む。まだ太陽が昇ってねえ時間帯だ。薄暗くて寒い。見送る奴はいねえ。物静かな旅立ちだと俺は思う。
白い雪で覆われている島をぼーっと見る。どんぐらい滞在したんだったか、全く覚えていねえ。例の結界で引き籠ったしなぁ。それ抜きでも、星天諸島の色んなところを巡って、泊まってきたものだからな。ざっと三か月ぐらいか。いや。もっとだな。着いた時は夏だったし。
「おう。何しとるんや。ぼーっと眺めて」
振り返っていたら、商売人っぽいおっさんに話しかけられた。明らかに新品の毛皮コートだな。あとすっげえ派手。
「ん。顔に出とるで。派手って。まあ大体の人から言われとるから分かるけどな」
楽しそうに笑っている。
「お前さんは大陸側の人間やな」
正確に言うと、その大陸の小さい島国なんだけどな。もう慣れたけど。
「その割に喋りが上手いな」
「結構長くいましたからね。端から端まで。大きい島ひと通り、巡りました」
「そりゃあ上手くなるってもんや」
思いきり背中を叩かれた。痛てえ。
「そんで、長い旅をして、お前さんは今後何するつもりなんや」
鋭い質問が飛んで来たな。
「まあ最初は仕事探しですかね。生きていくために」
「無難やな」
「あとは……旅して、見てきたことを文章にして、本として出す……ですかね。ちゃんとメモというか日誌がありますし、その辺りも使いながらで」
何やらおっさんが考え始めてるな?
「あの?」
声をかけても、唸っているだけ。ええ?
「大陸も歩いてきたか?」
ようやく復活したと思ったら、予想外の質問が飛んで来やがった。答えられるけど。
「ええ。大陸の方もそれなりに」
「なら大陸と星天諸島、二つ分けておいた方がええで。そうすりゃ、金に繋がる」
読破しやすいとかじゃなくて、金という理由が商売人らしい。すっげえいい笑顔。太陽出てねえってのに、歯が光ってる。船の灯りだよな。多分。
「そうしておきます」
「本気で書くんなら、人手が必須やで。読みやすくなるし、誤字脱字とかもやってくれるのなら、頼めや」
えっらい具体的。
「……その感じだと、普段から何かしら書いているようなお仕事を?」
「いや。ただの趣味」
趣味かよ。
「とはいえだ。ここに来る奴なんざ、少ないからなぁ。遠いとこから来てるとなると。せやから。本気で助言を送っておいた。金はいらん。将来が俺らにとっての報酬やからな」
宣伝として使う気だ。圧が感じる。
「どこまで出来るかは分かりませんが、とりあえず心身ともに無事に帰る事が先決ですので」
「せやな! 命あってこそ!」
笑い合った。ガエンで降りて、そこで別れて、別の船に乗って。冬だからこそ、見える景色とかもあって、面白かった。途中で新年を迎えて、オセチとやらを貰ったりして、子供と遊んだりして。いや。寄り道したから、思ったよりもかかったな。きっちりした計画じゃねえからなぁ。書きたいことがどんどん増えてるし。
とりあえず、ヒューロに帰ろう。最短ルートというものは存在しないから地道にと思ったら、旅で得たツテでガッツリ短縮しちまった。助かったけど、ちょっと危ない時があったな。そこは省く。徹底的に。子供だって見るんだ。大人向けのは書きたくねえ。それ以外を短い番外編にしよう。
まあ色々と帰りもあったな。振り返ると。ハイフォンシーで出会った教室のみんなと酒を飲んだし、食べ歩きをしたし、魔改造の馬っぽい何かで駆けまくったし。カレンの温泉でのんびりしたし。シィーヴィシュエで屋台巡ったし。アニヌゥスで魔獣乗って、移動したときは風で殴られたような感じだったな。
楽しいし、危ない時もあった旅は終わりだ。着いたら、生活のために動き始めねえと。それと。本をどうやって書けばいいんだ?
元勇者、極東の島国を回る いちのさつき @satuki1
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