第43話 お宿に引き籠る

 吹雪の週間というものが存在しているらしく、シロヤマの島は船の運航を止めている。外だってメッチャ寒いから、宿で引き籠るしかない。原因はカンムとやらが敵国から守るために貼った、自然を利用した大掛かりの結界なんだとか。俺らから見たら、余計なことをするなって感じなんだけど……昔はそうじゃなかったらしい。


「この辺りはカンムの民で……いや今もそうだけど、混血だしなぁ。まあともかくだ。千年以上も前はそういう奴らが住んでいたって話だ。文化。言葉。その他諸々で違っていた。中央の政府が攻めることが多くてな。手を焼いてたらしいわ」


 酒を片手にベラベラと喋る学者のおっさん(本当かどうかは分からねえけど)の話を聞いていて、その名残はなんとなあく分かる。言葉が所々独特だしな。言葉は通じるけど、なんつーか別の言語みたいな匂いはしてたし。


「星天諸島で混在したようなもんやな。だいぶ地図が変わったってのが大きいわぁ。どこも混乱状態やったらしいで。ああ。因みに僕は五十年前に生まれたから、よう分からんで」

「星降る夜でしたっけ。良くも悪くも変わったんですね」

「らしいわ。何もかもが変わってもうた。それでも土台が変わってないのが不幸中の幸いやな。共通してるところだってあったしな」

「それで協力し合って今に至ると」

「そゆこと。あ。姉さん。オハ汁くれ」


 汁物を頼んだ。オハ汁はシロヤマの島でよく食う奴だな。根菜とひき肉や魚、にんにくの葉で作るというあれだ。それに味噌を入れる。もう慣れた。


「元々はオハウっていう、カムイの民の料理なんだよ。味噌に馴染みがない民だからな。見た目で毛嫌いしてたらしいで」

「ああ。気持ちはわかります」


 俺も似たようなものだったから。旅人だから即座に切り捨てたけどな。


「そうだったのか。そうだったのか」


 めっちゃ悲しそうに言ってる。


「いや俺の故郷にないものでしたから。魚も生で食べるなんてこと、しませんでしたから、最初は怖くて」


 キンキンに冷えた鮭の刺身を口に入れる。独特だ。ひんやりしていて、固いところもあって、その中で良い脂が美味い。口の中も温かいらしいから、多少溶けてるのかもな。


「今は完全に慣れとるなぁ」


 まるで子供が成長して嬉しい親みたいな言い方でなんか嫌だ。


「正直大陸の独自の料理でヤバいのがあるって話ですし、そっちの方がやりづらいってだけですよ」


 それを聞いたおっさんは笑う。


「ああ。それは否定せえへんわ。下手したら死ぬこともあるらしいからな。えり(俺のあだ名みたいなもん)の故郷で変なんあったりは」

「どうでしょうね。ある知り合いの術師がぶっ飛んでいるぐらいで、俺にとっては普通のものばかりですよ」

「そりゃあ……えりにとっちゃそうやろけど。色々話してや。そんなに客おらんから、いやらしい話も大歓迎やで」

「おばさんに追い出されるので却下です。それ以外なら話しますよ」


 のんびりとした交流も悪くない。下ネタ抜き。いやらしい話抜き。よくあるヒューロの話を俺はした。それでふと思い出したんだ。半年以上も遠い地にいるけど、やっぱり俺の住むところはヒューロ王国なんだって。あと……そろそろ帰るべきなのかもってな。不思議だ。喋れば喋るほど、故郷が好きなんだって自覚したし。

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