最終話 大団円~それぞれの旅立ち

 最初に 


 信長は生きていました~逃げの章は今回で完結です。

 今まで見てくださった皆様、本当にありがとうございました。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 明智光秀の影武者を埋葬し、一夜明けた宿屋にて早朝より話をする信長一行。


「やはり秀吉が絡んでいましたか」

 成利は神妙な面持おももちで信長に返す。


 信長は頷く。

「だね! 結局、影ちゃんが明智ちゃんだと思って怒ってたのは明智影あけかげちゃんで、実際に行動を支持していたのは明智ちゃん」

 

 続けて信長は

「両方に挟まれて、不満が溜まってたんだねー」と、言う。


 すると明智光秀は

「そうですね。私がもっと間に入って親身になっておれば……」と、答えた。


 それを聞いた影武者信長は

「私は、なんとかして功績を上げさせようとはっぱをかけているつもりだったのですが、申し訳ございません。」

と、反省するしかなかった。



 信長はひどく落ち込む自分の影武者に優しかった。


「影ちゃんを悪く言ってる訳じゃないよ。そこに付け込んだおサル(羽柴秀吉)が、一枚上手だったんだよ」

 

 今回の一件には、皆それぞれ思うところがあった。



 明智光秀もまた普段より自分にそっくりな影武者を使い、内政や軍事を行っていた。当然、信長の前にいる時の明智光秀もまた影武者だったのである。

 つまり、長年信長に小言を言われ続け邪険にされていたのは明智本人ではなく影武者であり、影武者と影武者の仲違いにより起こった出来事こそが『本能寺の変』だったのである。


 明智の影武者は信長の態度に苛立ちが募った末、秀吉から「他の者達のためにも明智殿が天下を取るべきでは」と煽られ、今回の決断に至ったのであった。

 だがそれは、秀吉の天下取りへの陰謀であり、秀吉はあっさり光秀を切り捨て明智軍を討つ事で織田に仕える武将達の信頼を確立し、天下を治めるのであった。


 影武者の行き過ぎた言動を止めれなかった信長。信長のためにと功を焦り、明智(影武者)に強く当たった影武者信長。それを知っていてフォローできなかった明智光秀。一番近くにいたにも関わらず、何も助言できなかった成利。


 皆がそれそれが思いがあり静まるなか、信長がその沈黙を破る。


 立ち上がった信長は

「……という事で、なにはともあれお疲れさまでした。これにて解散、今まで本当にありがとうございました!」

と、皆に頭を下げた。


 それを聞いた他の者は慌て、それぞれが信長に詰め寄る。


「信長様、秀吉めは放っておくのですか?」

 成利は信長に詰め寄る。


「うん。もう終わった事だし、後はあのう〇こたれに任せるよ! 俺はやりたい事があるし、おサル(秀吉)は確かに頭は良い、だけど羽柴を支えられるのはアイツだけだよ。羽柴の時代はすぐに終わるよ……たぶんね」


 成利は首を傾げた。

「う〇こたれとは?」


「あーー」

 影武者は「ポン」と、手を叩く。


「家康様ですな」

 明智光秀も何かを察したように納得した。


「うん。噂によると大を洩らしたんだって※1」


「は……はぁ」

 成利は少し困った顔をしていた。


 しばらく考えこんだ後、明智光秀は

「それでは、私は家康殿を陰で補佐していこうと思います」

と言う。

 

 明智光秀は「どうしても秀吉を許せない」と、徳川家康につ決意したのだ。

 

「私も行きとうございます。私は影の実働部隊となります」

 影武者信長もまた徳川に着くと決断。


「私は……」

 成利はチラッと信長を見た。


「ここで皆お別れだね」

 信長は床に置いていた刀を腰に下げ、旅立ちの準備を整えようとしていた。


「信長様、私はこれからも信長様に仕えとうございます!」

 成利はそそくさと身支度を整える信長に土下座し懇願した。


 すると信長は成利の前でゆっくり腰を下ろし、両肩に手を当てこう答えた。


「蘭ちゃん」


「はい」


「これからは、普通の女の子として生きなさい。そして、良い男と結婚して子供作って、幸せになるんだよ」


「でも、私は……」


「いや、これは俺の最後の命令」


「でも……」



 影武者信長は信長に問う。

「信長様は今後どうされるのですか?」



「俺?」



「はい……」



「俺は、まだ見ぬ絶世の美女達を探す旅に出る!」



「……」



「はぁ?」


 明智と影武者はあんぐりと口を開け、理解に苦しむ。


 成利はそんな信長の頬を力一杯引っぱたいた。


「この(女)垂らしが!!」


 張られた頬に手を当てニコっと笑った信長は「うん、蘭ちゃんらしくて良い」と言うと、立ち上がり部屋の出口まで行くと手を振った。


「じゃあね、みんな。長生きしようね!」


「信長様もお達者で」

「寛大な恩赦、本当に感謝いたします」


 その場に正座し話を伺っていた影武者と明智は、頭を深々と床に付くほどにお辞儀をした。



 扉が閉まり信長の姿が見えなくなった直後、成利の目から溢れんばかりの涙が自然と流れ落ちていく。成利は信長に恋心を抱いていたのだった。


 それを見た影武者が「成利様、さっきのは信長様の……」と、言いかけたところ「わかっておる、言うな」と、成利はその言葉を遮った。


 しばらくして成利が落ち着いたの見計らい、三人は宿の外へ出る。


「しかし、信長様はどこへ行かれたのか」

と、明智光秀が呟く。


「どうでしょうな。あの人の考えは、我々では計りきれぬところがある故」

と、影武者は言う。


 成利は影武者と明智の会話を静かに聞き、少し微笑んだようにも見えた。



 そして、三人はそれぞれに別れを告げ別々の道を歩き出す。


 

 それから間もなくして羽柴秀吉は天下統一を果たし豊臣秀吉と名乗る。


 豊臣政権は約13年から18年続いたとされるが、豊臣秀吉没後、関ヶ原の戦いで豊臣方の石田三成率いる西軍に徳川家康率いる東軍が勝利すると豊臣家は完全に消滅。

 徳川家康が秀吉に代わり天下を治める事になる。以降、徳川政権(徳川幕府)は100年以上も続いたのである。


 

 『本能寺の変』後、生存説のある信長だが、姿を見たと言う者は誰もいない。



その後、別々に歩み出した者達は言うと……



 森成利(幼名森蘭丸)――――自分の生まれ故郷である尾張国へ戻る。以降、刀を二度と使用する事なく普通の女子おなごとして暮らす。22歳で商人の男の元へ嫁ぎ、家事に勤しむ。5人の子宝に恵まれ幸せな生涯を送った。


 明智光秀――――徳川家康を補佐すべく駿河国するがのくにへ行く。その後、徳川家康となんとか面会を果たし事情を説明。家康の指示により自身を隠すために僧となる。この者こそが、家康に僧でありながら助言ができる男として名をはせ、徳川家に多大な影響を及ぼしたとされる『南光坊天海』であった。※2


 信長影武者――――明智光秀と同様、駿河国へ行く。駿河国のある村で農民として生きる傍らで剣の腕を評価され、伊賀忍衆となり家康のために暗躍する。


 フランシスコ・ザビエル――――インド西部の州ゴアにて宣教監督となったザビエルはインドを拠点としながら、宣教活動を行う。日本に二年程滞在したのち、一旦インドに戻ったザビエルは中国への布教を目指すが、思うようにいかず中華人民共和国広東省台山市の沖合にある島『上川島じょうせんとう』にて病に倒れた。

 

 病死したとされる場所付近の丘には、何故か日本刀のようなものが墓標とされ、その地にいた誰もが「植えられた木から見た事のない花が咲いている」と、一時期話題となったとかならなかったとか……。※3


 日本では、その花の名を『木瓜ぼけの花』と呼ぶ。


                                 おわり

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

※1 徳川家康は武田信玄との戦「三方ヶ原の戦い」で大を洩らしながら逃げたとの説があります。

※2 俗説として語らています。

※3 信長とザビエルが直接面会したという記録は残ってないとされていますが、この小説では実際会った事としています。第3話にて



 また、機会と時間があれば続きを書きたいと思っておりますが、これ以降は完全架空の出来事となってしまうため、少々悩んでいる所でございます。

 この作品は史実と部分的に合っていたり、合っていなかったりで成立している話だとすると続編を書くのは少し違うかな? っと思ったりもするのです。

 

 なにはともあれ、最後までお付き合いありがとうございました。これからも頑張って執筆していきますので応援お願い致します。

 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

信長は生きていました。逃げの章 ヨルノ チアサ @yorunotiasa

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ