第13話 6月13日(逃亡生活十一日目)下
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勝竜寺城に明智軍が籠城すると秀吉軍は城を包囲し鉄砲攻撃を一斉行う。そして、ついに秀吉軍本体及び織田信孝、丹羽長秀の軍が山崎に着陣すると総攻撃が開始された。
(勝竜寺城の場所は現在の長岡京市にあり山崎は南に隣接した地域。乙訓郡大山崎町)
秀吉軍の総攻撃が開始されてから明智軍が壊滅するまでにそれほど時間はかからなかった。
信長達は松田軍と堀尾軍の戦に巻き込まれた後、天王山麓から勝竜寺城方面へと移動を試みるが、それがなかなかもって思うようにいかなかった。
明智軍と秀吉軍との戦が激化により、巻き込まれる可能性が高くなってきたからである。
堀尾兵の鎧を着た信長達が、明智軍が大勢待ち構える勝竜寺城に行くのは到底不可能な事だった。だからと言って、いつ斬りかかられるか分からないこの状況で鎧は脱げない。それを分かった上でそれでも信長は少しずつだが勝竜寺城へと歩を進めた。
その頃、勝竜寺城では籠城する明智光秀に最後の決断の時が訪れていた。
「明智様、もはやこの城は持ちませぬ一旦逃げましょう。命があればまた次があります!」
そう進言したのは
「……」
「悔しいが致し方あるまい。坂本城に戻り再起を計るとする!」
13日夜、苦渋の決断であったが明智光秀(影武者)は勝竜寺城を手放し逃亡を開始した。
さらに戦が激化し停滞を余儀なくされた信長達は、見通しのきく高台に上がり戦況を見守る。
「凄まじい波状攻撃だ。これでは人数で劣る明智軍はどうしようもないですな」
と、影武者は言う。
「そうですね。陥落も時間の問題かと……こうなってしまってはもはや、私達に為す
成利は何もできない自分が歯がゆかった。
「影の奴もここまでか……できれば私の手で終わらせたかった」
明智光秀は自分の手で影武者を始末したかったのだが、もはや諦めざるを得なかった。
「帰りましょうか?」
呆ける様に影武者は言う。
「そうですね、ここにいては私達の身にも危険が及ぶでしょう」
遠くを見つめ、そう答える成利。
明智は俯き呟く。
「私達は秀吉軍が指揮下におく堀尾軍の兵を切ってしまった。もう軍にも戻れませんな……」
成利はそんな明智の肩にそっと手をやり
「明智殿、それはこれから宿でゆっくりと考えるとしましょう。信長様、宿へ戻りましょう」と、優しく言った。
「……」
「信長様?」
成利は信長の方を振り向く。
「いない」
「えっ?」
明智と影武者は驚き辺りを見渡した。――――が信長の姿が見当たらない。
「どこ行ったのよ! あの馬鹿殿」
「成利様、それは言い過ぎかと……」
「五月蠅い、影武者」
「はい! すいません」
怒り狂う成利を宥め、宿へ連れて帰るのに「苦労した」と、後の明智と影武者は語る。
一方で……
明智光秀の影武者は少数の家来と共に
「くそっ、またも落ち武者狩りか!」
「殿、先へ御行きください。私共が足止め致します」
明智光秀(影武者)をかばい、護衛の家来が落ち武者狩りと何度も交戦。一人また一人と減っていき、最後の連れの者が倒れるとついに明智は一人となってしまった。擦り傷だらけでふらつきながら、それでもまだ竹藪をかき分け明智は坂本城を目指す。
ふと、足がもつれ地面に転ぶ。
「どうしてこうなった。全てうまくいっていたじゃないか! 何から狂った!」
明智は悔しそうに地面を「ドン」と殴った。
そこへ一つの影がゆっくりと近付いて行く。
「君が主君(明智光秀)を裏切ってからだよ。たぶん……」
「なんだと!」
木の影から
「何奴だ。貴様!」
「ようやく会えたね。探したよ、
明智影はゆっくりと立ち上がると刀を抜き身構える。
「そっかー。明智影ちゃんは本当の俺を知らないんだったね」
「……」
「ま、まさか……」
「そうだよ、信長だよ。初めまして」
明智影は驚きよろよろと数歩後ずさりする。
「そ、そうか。本能寺で討ったのは影武者であったか……とんだ間抜けをしたものだ」
「いや、影ちゃんも生きてるよ」
「なにーー!」
もはや何が何だか分からない様子の明智影だったが、確かに分かる事が一つだけあった。それは、信長が自分の敵であるという事である。
信長も鞘から刀を抜き、右手一本に構えた。
それを見て明智影は嘲笑う。
「ハハッ、正気か! 知っているぞ信長、お前は剣術がからっきしだろう。お前の家来達は皆、知っておるぞ」
「うん、そうだね」
「それになんだその刀、脇差ではないか! そんな粗末な物でこの私を討とうなどとは随分安くみられたものだ!」
それを聞き信長はニコっと笑う。
「蘭ちゃん風に言うとなんだったかな?えっと……」
信長は明智影との距離を詰める。
「ああ、そうだ! 弱いヤツほど良く
「うつけが、返り討ちにしてくれる!」
双方、同時に動く。
明智影の上段からなる振り下ろしを信長は右側面へと紙一重で躱した。
明智影は、振り下ろした刀が空を切るとすぐさま返す刀で信長の左わき腹を狙い横一線。
明智影の刀は正確に信長の左わき腹を捉えたように思えたが……信長は咄嗟に腰にぶら下げた鉄砲を左手に抜き、その攻撃を受け止めた。
「なっ!」
驚き動きの止まった明智影の一瞬の隙をつき、信長は右手に持つ刀で首を斬ったのだった。
「つ、強いで……はな、いか……」
「コレね。正確には脇差じゃなくて小太刀なんだ。可愛いくノ一の子に習ったんだ」
成利はこの事を知っていたため信長に刀身が通常より短い小太刀を渡していたのだ。
「本当、蘭ちゃんに感謝だよね」
「小太刀流……か……」
致命傷を負った明智影はその場に仰向けに倒れた。
「お見事……」
「サルだろ?」
「わ、わかって……たんですね」
「うん」
明智影をたきつけた人物は羽柴秀吉であった。信長は薄っすらとその事に気付いていた。
「そ、う、ですか……つ、かれました」
「うん、しっかり休んだらいいさ」
「あ、り、が……と…………す」
明智影はそのまま静かに息を引き取った。
信長は人目に付かない様に明智影の亡骸を草木で隠すと一旦その場を後にする。
ほとぼりが冷めた頃、再びこの場へ訪れた信長等は穴を掘りその亡骸を土に埋め供養した。
農民に金の棒を与え坂本城まで案内を頼むが)刀剣も取り上げてしまいたい欲に駆られ、彼を刺殺して首を刻ねた。【フロイス日本史】
惟任日向守は十二日に勝龍寺より逃れて、山科にて一揆に叩き殺された。【多聞院日記】
惟任日向守は醍醐辺りに引き籠もり、郷人一揆に討たれた。【言経卿記】
向州は醍醐の辺りで一揆に討ち取られ、その首は村井清三、三七郎殿(織田信孝)へ届けられたそうだ。【兼見卿記】
明智めが山科の藪の中へ逃げ込み、百姓に首を拾われた。【秀吉書状 浅野家文書】
(戦国時代勢力図と各大名の動向ブログ様引用)
このようにいろいろな書記により明智光秀の最後が書かれています。
明智光秀の遺体は見つからなかったとか、秀吉の元へ首は届けられたが、腐敗により本人かどうかもわからなかったとか……様々です。
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※しんがり 軍が退く時に最後尾になり追って来る敵を防ぐこと。
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