6センチの絶妙さ

高校の合宿での、スリルあふれるアクシデントを描いた掌篇。めずらしい少年視点だけれど、違和感なく自然に読める。恋人のいる女子マネージャーと、なぜかふたり切りになり、非常灯の明かりしかささない暗い廊下で、鼻と鼻が当たり、唇が触れる。壁にもたれた彼女のなかに、「6センチくらい」中指が入るのだけれど、この6センチがちょうどいい長さだった。この後、彼女とは実際のセックスまで進展しないのだけれど、トイレで自分の指の匂いをかぐ場面を入れたのは、作者のお手柄。主人公の切なさが効果的だし、セックスには実際の行為と回想という2段階の快楽があることを、読む人に教えてくれる。

(「恋愛ショートストーリー特集」/文=石田 衣良)

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