第3話

 エインストは最初、シモンのことが分からなかった。

 そのくらいシモンの人相は変わり果て、格好も乞食のようになっていたのだ。


 しかし、脇に控えるガルムを見てようやく気付き、すぐさま踵を返した。

 シモンはそんなエインストに追いすがった。


「お願いだ、助けてくれ」


 フラフラの身体で走り、エインストの服に触れた瞬間、エインストは激昂しシモンを突き飛ばした。


「汚い手で触れるんじゃない、クズめ! まったく、あのとき俺の言うことを素直に聞かないからこうなるんだ」


 言いながらエインストは服についた汚れをとろうと試みるが、簡単には消えないと分かると大股でシモンに詰め寄る。

 シモンは突き飛ばされたときに頭を打ってしまい、立ち上がることもままならなかったが、エインストには関係なかった。


「お前の手垢がついただろうが、このクズ! 本当なら洗浄費を出してもらうところだが、そんな持ち合わせも無いだろう。どうしてくれる!」


 罵声を浴びせながら、エインストは寝ているシモンの腹を蹴り飛ばす。

 シモンはどうすることもできず、身をよじらせ痛みに耐えた。


 シモンが屈辱に震えながら目を閉じ泣いていると、生暖かい感触が顔を伝った。

 目を開くと、ガルムが心配して自分に身を寄せてくれているのが分かった。


 シモンはガルムの瞳を見つめた。

 言葉は出なかった。ただ、自分の痛みを、屈辱を分かってほしくて、見つめ続けた。


 次の瞬間、去っていくエインストの首筋目掛けてガルムが襲い掛かった。

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